2016年7月12日に仲裁裁判所の裁定が出た直後ですら、ASEANは南シナ海での中国の主権を否定した仲裁裁判所の判断を支持する内容の共同声明採択を断念している(7月13日)。議長国ラオスが「コンセンサスが得られなかった」と加盟各国に通知した。カンボジアなど親中派の加盟国が反対したためと見られる。

 さらに、7月25日にはASEAN外相会議が開かれたが、ようやくまとめられた共同声明ではやはり仲裁裁判所の裁定のことは触れられず、当事国同士の話し合いによる解決が望ましいという文言が盛り込まれることになった。このニュースが中国国内に報じられると、世論は外交上の大勝利だと沸き上がった。仲裁裁判所の裁定について触れられなければ、国際世論の圧力が和らぐからだ。

 当事国同士の話し合いというのは、中国以外の当事国が消極的だった。彼らはアメリカかASEANに調停に入ってほしいと思っていた。交渉で中国に強く出られることを警戒していたからだ。

 しかし、中国は、それを頑なに拒否してきた。中国側の理由としては、「関係のない第三者が入ると、問題がより複雑化する恐れがある」ということだが、アメリカ在住のある中国問題専門家は、「それは建前で、実際には、中国は経済援助も含めて当事国の弱みを握っており、対策に長じているため、個別交渉のほうが圧倒的に有利だからだ」と語った。

中国を援護するカンボジアの狙い


 しかも、ASEANでは「全会一致」の原則がとられており、1カ国でも反対なら共同声明は発表できないことになっている。2016年7月のASEAN外相会議では、カンボジアが中国に不利な内容が盛り込まれることに強く反対したため、各加盟国は妥協案を探るしかなかった。

 このことについて、「産経新聞」(2016年7月25日付)はこう分析する。

 「カンボジアは、過去に採択した声明文までも引っ込め、中国に配慮するよう迫った。背景には、30年以上にわたりカンボジアの実権を握ってきたフン・セン首相が、軍事的にも経済的も中国へ依存を深めざるをえない事情が指摘される。国内でも強権体質が強まり、2018年の総選挙を控え政治対立が激化している。南シナ海問題では、ASEAN内部でも、親中のカンボジアなどと、フィリピンやベトナムなど対中強硬派が対立している」