フン・セン首相はもともとベトナムへ亡命した過去もあり、1978年のベトナムによるカンボジア侵攻により樹立したベトナム寄りの政権で外務大臣になった人物である。また、政権を取る際にもベトナムの支援があったとされている。だが、首相に就いてからは、傀儡政権にならないようにずっとベトナムを警戒している。南シナ海問題で対中強硬派のフィリピンやベトナムと対立しているのもそのためである。

 東南アジアにおいてベトナムは、もっとも実力のある国である。だから、フン・セン首相は小国カンボジアの安全のために軍事的にも経済的にも中国に依存しなければならないのだ。

 2016年10月13日付の「ロイター」の報道によると、習近平主席は同日、カンボジアを訪問し、高速鉄道建設やシェムリアップ州での空港建設などに対する中国の投資を促進させることを約束したうえで、中国政府が約8900万ドルの債務を免除することも表明した。また、融資合意など合わせて31件の合意が成立し、カンボジア首相側近は「合意や約束の数という点で歴史的」と述べた。中国は1400万ドルの軍事支援も約束したという。


「中国は国際秩序と規則に挑戦するつもりはない」


 2016年7月25日、アメリカと中国の間で2つの会談が行われた。いずれの会談も非常に興味深く、日本のメディアも報道していたが、なぜか大事な内容を書き漏らしたり、あるいは事実を隠したりしていた。

 まず、1つめの会談を見てみよう。ラオスのビエンチャンで開催中のASEAN外相会議に出席したアメリカのケリー国務長官は25日、中国の王毅外相と会談した。南シナ海をめぐる仲裁裁判所の判決後、初めての米中外相の会談であったが、ケリー長官が中国の主権主張を退けた仲裁裁判所の裁定を遵守するよう要求したのに対して、王外相は裁定を拒否する中国の立場をあらためて伝え、南シナ海問題へのアメリカの介入を牽制した。

 日本のメディアが伝えたのは、ここくらいまでだった。しかし、大事な内容が報じられなかった。中国メディアの「新華網」(2016年7月26日付)は、会談の中身をこう伝えた。

 「ケリー国務長官は中国とASEANが関連の共同声明を発表したことを歓迎し、米国側は南中国海の仲裁結果に対し立場を持たず、中国・フィリピンによる二国間対話の再開を支持し、仲裁案というページを速やかにめくり、南中国海情勢の温度を下げさせるべきだとの見方を示した」

 中国にとって都合のいい表現が織り込まれてはいるが、ポイントは「米国側は南中国海の仲裁結果に対して立場を持たない」というケリー国務長官の意思表明である。これは作り話ではなく、事実である。アメリカが中国に譲歩したと見られる。