長辻 日米原子力協定の問題がありますよね。2018(平成30)年が更新時期で、核燃料サイクルが動かない、もんじゅが動かない、再稼働も進まないということになってくると、アメリカは「日本は大丈夫か」とみると思う。そこで協定が更新されずにキャンセルされたら、ものすごく重大な影響が日本に及ぶでしょう。

小泉 うん。それは日本の方針、ゼロに決めればできますよ。話せばできる。アメリカは理解する。大統領は、日本の首相がそうだと言えば、日本の意向を尊重します。この原子力の問題というのは、カネがかかってしようがないんだよ。

長辻 でも、首相のときはそうは思われなかったわけでしょう。

小泉 信じてたよ。みんな「これは大丈夫です」「安全です」「コスト安い」って言っていたんだよ。コスト安いなんてよくも…。俺も知っていたらな。ほんと悔しいよ、ウソを信じていたのが。あぁ、過ちだったなと。

長辻 しかし、小泉さんの思いは、後継の安倍(晋三首相)さんには伝わっていない。

小泉 うん。

長辻 参院選がありますね。今の思いをどう政治に生かしていこうと思われているんですか。

小泉 そのうち反映されるね、自然に。原発は高くコストがつく、安全じゃない、クリーンでもないというのが。そういう首相が出るよ。そしたらね、推進論者も役人も経済産業省も、ガラっと変わる。

長辻 しかし、安倍さんは、そうはならない?

小泉 安倍さんでは無理だ。もうここまでいっちゃってるんだから。いま変えられない。変わったらブレだといわれるし。

長辻 新しい政治のうねりを、郵政民営化のときのように起こそうというお考えはありますか。

小泉 いや、いずれ分かると思うんだ。多数意見だもん。国民がゼロがいいという。だから時間がたてばたつほど、ゼロでやっていけるというのが、分かるから。そうすると、国民の意見が政治を変えていくと思う。

長辻 国民的な議論をうねりにするには、参院選の大きな争点にすべきだというふうに…。

小泉 民進党とかしないのがおかしいね。電力総連の意向に左右されちゃう。いわゆる利権団体。

原発やエネルギー問題について小泉純一郎元首相と対談する、
産経新聞の長辻象平論説委員(寺河内美奈撮影)
長辻 原子力発電環境整備機構(NUMO)は、発電で生じた高レベル放射性廃棄物を地下深くに埋設する法人ですけれど、ここが全国の市町村に対して手を挙げてくださいと処分地探しの公募を始めたのは2002(平成14)年で、小泉さんが首相のときです。その頃のことは覚えてますか?

小泉 いやいや。任せてた。技術的には分からないから。専門家がいいと言ってやっていると。それが3・11でウソだと分かったから今、「過ちを改むるに、はばかることなかれ」といって、やっているんだよ。

長辻 その言葉は、将軍の徳川綱吉が好きだったんですよね。

小泉 あの綱吉が?

長辻 そう。面白いですね。綱吉と一緒なのは、ちょっと微妙ですね(笑)

小泉 あれは、生類を憐れもうというのはね、あれは行き過ぎだよ。

長辻 生類憐れみの令がなぜ可能だったか分かります? あれはエネルギーの問題なんですよ、実をいうと。あの時代に房総半島の方でイワシの大漁があったんですよ。イワシを犬に与えることで大量の犬を養うことができました。

小泉 あ、そうかぁ。

長辻 元禄時代は文化としては非常に華やかですよね。あれはイワシのエネルギーなんですね。イワシから魚油が採れるでしょう。それと肥料もです。肥料に使うことで木綿栽培が発達したんですよ。

小泉 ふ~ん。

長辻 着物が華やかになりました。麻はうまく色が染まらないけど、木綿は非常に染色性がいい。だから草木染で、庶民が草花の色を着られるようになったんですよね。

小泉 ふう~ん。

長辻 気分も高揚して。それまでは高い菜種油だから夜は寝ないといけなかったんですけど、イワシの油は魚油で安いので…。

小泉 あの行灯用の?

長辻 そうです。ですから、夜の時間が使えるようになったんです。

小泉 へえ~。

長辻 江戸時代の元禄文化というのは、イワシエネルギーの世界。だから、エネルギーというのは非常に大事なんですよね。

小泉 そりゃそうだよなぁ。だから忠臣蔵の討ち入りさ、大変だったと思うよ。あの暗い中さ、吉良上野介を探すのにね。

長辻 おっしゃる通りなんです。なぜ2年近くを赤穂浪士が江戸で生きられたかというと、イワシを食べていたからです。

小泉 イワシを…イワシは庶民の魚じゃないの?

長辻 赤穂浪士が食べていたイワシはさらに下の干鰯という、肥料にするようなものを食べていたんです。

小泉 はあ~。

長辻 イワシの豊漁期でなかったら赤穂浪士は飢え死にしていますよね。

小泉 そうかあ。綱吉の時代だよな、忠臣蔵。

 《後で知ったのだが、小泉さんは、大の忠臣蔵好きだった》

長辻 そろそろ、時間ですね。いろいろ、ありがとうございました。

小泉 はははは。

長辻 小泉さんはもっと怖い人かと思っていましたよ。この本を持ってきたので差し上げます。私が書いたものです。

小泉 『元禄いわし侍』か。面白いなぁ。ありがとう。