病院が存続するためには、常勤の院長が必要だ。高野院長が亡くなったことで、高野病院は閉院せざるを得なくなった。高野病院が閉鎖すれば、双葉郡からは病院がなくなる。97名の職員は職を失うことになる。このうち看護師は43人、介護士は17人だ。生活するためには、この地域から出て行かざるを得ない。

 政府も広野町も住民の帰還を推奨してきた。昨年9月には、遠藤智・広野町長は、今年の3月末までに全町民の8割(約4000人)が帰還すると予想していた。病院は欠かすことの出来ないライフラインだ。高野病院が閉院すれば、絵に描いた餅になりかねない。

  お嬢さんの高野己保事務長は、元旦には、広野町の遠藤智町長に対して「患者・職員を助けて下さい。私はどうなっても構いません。病院と敷地を寄附するつもりです」と伝えた。

 遠藤町長も事態の深刻さを理解し、福島県および周辺の自治体に支援を求めた。南相馬市立総合病院は即座に協力を表明し、外科医である尾崎章彦医師を中心に「高野病院を支援する会」を結成した。大勢の若手医師がボランティアで診療に従事した。

高野病院の診療継続のため開かれた緊急対策会議
=1月6日、福島県広野町
高野病院の診療継続のため開かれた緊急対策会議 =1月6日、福島県広野町
 行政も動いた。6日には、福島県・広野町・高野病院などで会議を開いた。翌日の福島民友は一面トップで「医師派遣や財政支援 高野病院診療体制維持へ県 福医大と連携」と報じた。

 このような動きを知ると、関係者が一致団結して、問題解決に取り組んでいるように見える。ところが、実態は違う。

 この会合に参加した坪倉正治医師は、「福島県は支援に及び腰でした」という。会議の冒頭で、安達豪希・福島県保健福祉部次長は「双葉地方の地域医療と高野病院の話は別です」と発言した。広野町で高野病院が果たしてきた役割を考えれば、こんな理屈は通じない。

 福島医大にも危機感はなかった。代表者は「常勤医を出すことはできない」と明言した。筆者が入手した福島県の報告書には「全県的な人材不足の中で、一民間病院に、県立医大から常勤医を派遣することは困難」と記されている。

 実は、この説明は虚偽である。福島医大は、星総合病院など県内の複数の民間医療機関から寄付金をもらい、「寄附講座」の枠組みで常勤医師を派遣している。

 また、福島第一原発の北の南相馬市原町区に位置する公益財団法人金森和心会雲雀ヶ丘病院には、災害医療支援講座から複数の専門医を派遣していた。