シビアな実業家と「道化」との二面性


 トランプは実業家の二代目に生まれ、名門大学の大学院を卒業している。在学中は父親から偉人の名言をしたためた手紙が毎週送られてくるという、『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』を地で行くようなオーソドックスなエリート教育を受けた。本書のエッセイにはトランプのインテリらしい面がところどころで顔を出している。本業である不動産ビジネスについては、細部へのこだわり、勉強熱心さ、必要とあらばみずから現場に赴いて建築素材選びもするハードワーカーぶりが語られる。そして特に若者に向けて書かれたビジネスマンとしての心得には、生き馬の目を抜くビジネスの世界を生き抜いてきたシビアな考え方があらわれている。

 その一方で、プロレスのショーで乱闘めいたことをやってみせたり、自虐的なテレビCMに出演したり、コントで自分自身をパロディ化した人物を演じたりと、世間のイメージどおりの側面もエピソードとして出てくる。

 このギャップに読者は首をかしげるかもしれない。しかしこれらの派手で道化じみた行動が、大衆にトランプの顔と名前を浸透させ、ドナルド・トランプという強烈なブランドを作り上げた。

今後は「米国民すべて」に対するパフォーマンスに注目


 『トランプ思考』では、メディアで誇張気味に伝えられる露悪的で派手な人物とは別人のようなトランプの一面をうかがい知ることができる。別の媒体、別のオーディエンスに対して発信するメッセージは、選挙運動で見せていた顔と異なることがおわかりいただけるだろう。

 トランプは選挙戦では現状に不満を持つ層にアピールする戦法をとり、彼らに受ける発言や主張で支持者を拡大し勝利を手にした。大統領就任後、トランプのオーディエンスは「票を狙えそうな層の有権者」ではなくアメリカの全国民となる。今後どのようにパフォーマンスを変えていくのか、国の舵取りに果たして彼のビジネスマンとしての才覚が活かせるのか。本書に手がかりを探しながらトランプ政権の行方を見守りたい。