減税で税収が落ち込み、債券金利が上昇


 トランプ政権が唱えている金融財政政策の根幹は所謂「上げ潮」路線です。米国の財政が健全化政策から拡大政策への歩みだしたという話になります。

 端的に言えば、返済能力を度外視して借りれるうちにより多く借りておこうというのが今回の財政拡大政策の特徴と言えます。財政膨張政策と言っていいかもしれません。

 民主党のクリントン候補は増税によって米国の債務返済能力を確かなものにしつつ、借りれる範囲の中で現状の債務を維持していこうという極めてまっとうな意図を大統領選挙中に表明していました。増税を行う間は緩和的金融政策を中央銀行が行い、増税に伴う景気後退リスクを抑えていこうという戦略でした。ドルの価値が増税で担保されるため持続的に海外の資金を引き付けやすいという利点がありました。しかし一方で増税という国民に痛みをもたらすものでもあり不人気な政策でありました。

 一方で、トランプ新大統領は大幅減税で景気浮揚を行い、その後で経済拡大の中で自然と国庫が潤うことを期待するという政策を志向しています。このことを日本では「上げ潮」政策と言います。

 国民にとって増税という痛みもなく、しかも景気浮揚が可能で税収の自然増も期待できる一方で、景気浮揚があくまで期待値にすぎないので実際に景気が浮揚しないというリスクがあります。その場合は国家債務だけが拡大してしまい、将来の増税を人々が予想してしまうために、将来に備えて貯蓄が増えて消費が低迷し有効需要がさらに低迷するという危険性も有しています。

CIAでの演説後、同本部を出発する
トランプ大統領=1月 21日
CIAでの演説後、同本部を出発する トランプ大統領=1月 21日

悪いインフレの到来



 経済学部の大学生が真っ先に学ぶ言葉に「乗数効果」という言葉があります。景気浮揚策の持つ効用がどれほど高いのかということが問われる数値のことを指します。

 これが高ければ高いほど財政拡大策の景気浮揚効果があるわけですが、需要が満たされていたり、供給に問題がある場合はこの数値は低いものとなります。選挙前からこの乗数効果がどうも低そうだということが市場では問題視されてきていました。

 というのは、どんなに減税されても一人一人が車を2台、3台も必要とするわけではないし、一人はどう頑張っても1日24時間しかないわけなので働き口がたくさん供給されても2つも3つも職を持てないということです。

 米経済は既に潜在成長力を全て出し切っている状況で失業率も4%台となっており完全雇用を実現している水準といっても過言ではない状況です。無理に景気を拡大していくような状況ではないといっても良いのです。経済需要という水が既に満杯のバケツにさらに水を注ぐように、景気浮揚のための折角のお金が無駄に使われてしまい、ただただ、インフレを高進させるだけになるのではないかということが懸念されています。

 上記の観点から、米連邦準備制度理事会(FRB)の理事の中には今般の上げ潮路線に異論を唱える理事も多く出てきており、また、イエレンFRB議長をトランプ候補は従前敵視する発言をしてきたため、乗数効果が低い財政膨張策への疑問から任期終了前のイエレン議長辞任の可能性もなきにしもあらずです。政権と中銀の考え方の不一致というこのことだけでもデリバティブ市場債券市場を大きく揺るがすことになりますが、さらに懸念があるのは、財源の裏付けがない大幅減税に言及していることです。