ポピュリズム色に彩られた大統領就任演説

 そうした意味で、トランプ大統領がどのような政治を目指しているのか、見ておく必要がある。その手掛かりとなるのが「大統領就任演説」である。例年、大統領は議会に対して「一般教書(State of Union)」演説を行い、1年間の施政方針を示す。最初の年は「大統領就任演説」がこれに代わることになる。と、同時に「大統領就任演説」は4年間の統治の基本姿勢を示すものでもある。
ワシントンD.C.の米国議会で、就任演説を行うドナルド・トランプ大統領=2017年1月20日(ロイター)
就任演説を行うドナルド・トランプ大統領=2017年1月20日(ロイター)
 トランプ大統領の就任演説は17分で、語数にすれば約1300語と、それほど長いものではなかった。通常、大統領の演説はホワイトハウスのスタッフであるスピーチライターが草稿を書き、大統領の側近がチェックし、最終的に大統領が承認する形で作成される。だが、今回はトランプ大統領が自ら原稿を書き上げたと伝えられている。トランプ陣営の広報担当者は「詳細な政策について話すのではなく、“哲学的なドキュメント”になるだろう」と話していた。確かに、トランプ大統領の就任演説では具体的な政策論はなく、基本的な理念を訴える内容になっていた。ただ、批判的な人は、「選挙運動中に行われた発言をまとめただけで、何の目新しいものもない」と切り捨てていた。

 では、トランプ大統領は就任演説で何を語り、私たちは、そこから何を読み取ることができるのだろうか。結論的に言えば、極めて「ポピュリスト」的な内容であった。演説の最初の部分で、「今回の政権移行は単に政府の移行にとどまらず、ワシントンから国民への権力の移行である」と指摘している。従来の政治はワシントンの一部のエリートによって行われ、多くの国民は恩恵に浴していなかったと、既得権を享受する政治家を批判している。「ワシントンは繁栄したが、人々はその富を共有することはできなかった」とも語っている。

 これは言い換えれば、ポピュリズムの最も典型的な主張である。ポピュリズムは「エスタブリッシュメント対反エスタブリッシュメント」という構図で主張される。エスタブリッシュメントとはワシントンのエリート、すなわち政治家であり、官僚であり、弁護士であり、企業のロビイストである。反エスタブリッシュメントは、トランプ大統領が言うところの「忘れられた人々」である。すなわち、今回の大統領選挙運動に即していえば、トランプ候補の最大の支持者となった白人労働者階層である。トランプ候補は、そうした人々に対して、演説の中で「アメリカはあなたたちの国だ」と訴えている。そして、「現在、すべての人があなたたちに耳を傾けている」、「再び忘れ去られることはない」と続ける。
 
 そして、今までの政府の政策を批判する。「何十年にもわたって、アメリカはアメリカの産業を犠牲にして海外の産業を豊かにしてきた」、「海外の軍隊に補助金を与え、国内の軍事力の枯渇を許してきた」、「企業は閉鎖され、海外に逃れ、その結果、何百万という労働者が取り残された」と現状を批判し、今後の政策の方針として「貿易、税制、移民、外交に関するすべての決定はアメリカの労働者と家族に恩恵をもたらすように行われる」と語っている。具体的には、雇用を海外から取り戻すこと、道路や橋梁など国内のインフラを整備することなどを指摘し、「アメリカ製品を購入し、アメリカ人を雇う」のがルールになると、極めて保護貿易的な政策を主張している。外交政策に関しても「それぞれの国が自国の利益を最優先する権利がある」として、従来の国際協調路線からの離脱を示唆している。

 こうした政策を実現するためには、国家に対する愛国心と忠誠心が必要であると説く。さらに軍事力の強化の必要性を説き、「アメリカ人が団結すれば、誰もアメリカを止めることはできない」と語っている。