既存秩序に挑戦、国内の分裂と国際的孤立化も

 “哲学的なドキュメント”かどうかは別にして、極めて情緒的な内容である。ワシントン批判は、その対象になるのは民主党議員だけでなく、共和党議員も例外ではないだろう。トランプ大統領は選挙運動期間中に「アメリカ人との契約」と題する政策綱領を発表し、議員の任期制の導入、ロビー活動の禁止を重要課題に掲げている。これも非エスタブリッシュメントの喝采を受ける内容である。トランプ大統領はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉、あるいは離脱を主張している。だが、NAFTAを批准したのは共和党であり、TPPを推進しているのは共和党を支持する経済界である。
米ワシントンでの「女性の大行進」。参加者らはトランプ大統領に抗議し、前日に大統領就任パレードが行われたペンシルベニア通りを埋め尽くした=1月20日
米ワシントンでの「女性の大行進」。参加者らはトランプ大統領に抗議し、前日に大統領就任パレードが行われたペンシルベニア通りを埋め尽くした=1月20日
 新自由主義に基づく国際主義は、共和党の基本政策であり、経済界の望むところである。とすれば、共和党は反国際主義、反自由貿易主義というトランプ政権の主張をどこまで受け入れることができるのだろうか。富裕層の減税は共和党の政策と一致するが、巨額のインフラ投資は共和党の望むところではない。巨額のインフラ投資を支持しているのは民主党である。

 ただ、その民主党もトランプ大統領の“正統性”に疑義を訴えており、基本的に反トランプである。政策を取り上げて論議すれば、さらにトランプ政権と民主党、共和党の亀裂は明らかになってこよう。既にアメリカ政治の両極化、分断は深刻な問題となっている。トランプ政権は、その分断をさらに拡大する可能性がある。

 国際的にも同様な危険性が見られる。戦後、アメリカを中心に自由貿易体制、安全保障体制が構築されてきた。トランプ大統領は、「アメリカ第一主義」を唱え、そうした既存の秩序に挑戦しようとしている。アメリカが世界の指導者でありえたのは、強力な経済力と軍事力を背景に、国内市場を開放し、積極的に国際的公共財を提唱してきたからである。トランプ政権の内向き政策は、そうした道徳的指導者としてのアメリカの優位性を放棄することを意味する。

 既にヨーロッパの指導者は厳しい批判を始めている。トランプ大統領は「アメリカ第一主義」に基づく、どのような世界秩序を想定しているのであろうか。就任演説で「各国は自国の利益を最優先する権利がある」と述べているが、歴史が教えていることは、国内利益と国際利益の調和である。リバイアサン的な国際秩序は、混乱だけでなく、災禍ももたらすことになるかもしれない。