第一の論点では、譲位自体の問題点が数多く指摘されている。明治時代に皇室典範を起草する時に、①上皇が政治を混乱させるおそれ、②譲位が強制されるおそれ、③恣意的譲位により政治に圧力がかけられるおそれ、の三点を考慮した結果、譲位を制度にするのを見送った経緯がある。政府は現在までこの見解を踏襲してきた。この論点整理でも譲位を制度化した場合の問題点は他にも多数指摘されている。しかし、このような問題をいかに克服して譲位を実行していくかを考えなくてはならないであろう。
第193通常国会の開会式でお言葉を述べられる天皇陛下=1月20日、参院本会議場
第193通常国会の開会式でお言葉を述べられる天皇陛下=1月20日、参院本会議場
 こういった譲位の問題点は、第二の、将来の全ての天皇を対象とすべきであるかとの問いかけには、そのまま懸念事項となる。制度化にはその他にも問題は多く、論点整理でも計二十三もの問題が指摘されている。

 その中で私が最も懸念するのは「天皇の意思に基づく退位を可能とすれば、そもそも憲法が禁止している国政に関する権能を天皇に与えたこととなるのではないか」との指摘である。

 譲位を制度化する場合は「天皇の意思」を譲位の要件の一つとすることになる。その場合、国政に関する権能を有しないと規定する憲法四条一項との整合性が問題となる。

 たとえ、他に皇室会議や国会の議決を経ることを要件に加えたとしても「天皇の意思」がなければ譲位は実行されないのであるから、天皇が統治に関する決定に関与することになるため、国政に関する権能を有することになる。

 天皇の国事行為は憲法六条と七条に列挙される十二項目に限定される。ここに書かれていない以上、天皇が譲位の発議権を行使することは、憲法四条一項の趣旨と合致しない。まして、憲法が定める十二項目の国事行為は、天皇自らが内容を決定する項目は一つも無い。天皇以外の機関がすでに決定していることを、形式的・儀礼的に行なう行為があるだけである。

 したがって、四条一項の例外として「譲位の決定」を七条に追記する憲法改正を経ない限り、「天皇の意思」が要件となる制度は、憲法との整合性が取れないといわねばならない。この点は、譲位を制度化する場合の最大の問題と言っても差し支えないであろう。このことは『正論』三月号に詳細を述べたので参照されたい。

 そして、論点整理の最後の論点となるのが、今上天皇一代限りを対象とすべきかどうかの議論である。この場合、先述の譲位を制度化した場合の問題点は生じない。今上天皇一代限りを対象とした場合に生じる固有の問題があるかどうか、もしくは、その様な方法が憲法と整合性がとれるかを検討すればよいであろう。

 公表された論点整理によると、長寿社会を迎えたため将来も高齢の天皇の問題が生じる点や、特措法で対処することで今後は政権による恣意的な譲位が可能になるのではないかとの懸念が示されている。

 論点整理は、必ずしも全ての論点を網羅しているとは限らないが、主要な論点を列挙する目的は達していると思われる。今後、譲位の問題を考察するうえで、大いに参考になるものと思うので、熟読されたい。