特措法により典範改正への道を拓く


 では、この高齢譲位を実現するため、何をどうしたらよいのか。これも一般論でなく、個別論として取り組む必要がある。

 何となれば、陛下は、参与会議(宮内庁長官・侍従長も含む)の席で「平成30年までは頑張ると仰(おっしゃ)り、それまでに目途をつけてほしい、というお気持ちを伝えて」おられる(『文藝春秋』10月号特集記事)。その30年とは、御在位満30年となる平成31(2019)年1月7日までを指す、と解してよいと思われる。

 そうであれば、それまでに法整備を行い、諸準備を進めなければならないという時間的な制約が前提になる。従って、その範囲内で可能な方策としては、当面まず特別措置法を制定して「高齢譲位」を可能とした上で、70年前に施行されてから一度も改正されていない皇室典範の問題点を総点検して、必要不可欠な条文改正を段階的に進めるほかないと考えられる。

 ちなみに、昭和21(1946)年、新しく皇室典範を作成する審査委員会の幹事を務めた宮内省(のちに庁)の高尾亮一氏は、同37年、内閣の憲法調査会に提出した報告書「皇室典範の制定経過」の中で、典範第四条に天皇の終身在位を定めたけれども「予測すべからざる事由によって、退位が必要とされる事態が生じたならば、むしろ個々の場合に応ずる単行特別法を制定して、これに対処すればよい」と明言しておられる。

皇室典範の第四条・第八条の改正試案


 ここに高尾氏の言う「予測すべからざる事由」に相当する現実として、日本人の平均寿命80歳代という超高齢化社会を迎え、その状況下で陛下ご自身が高齢譲位を決意されたのである。だから、この事態に即応するため特措法を制定することは、実際的な合理性がある。それゆえ、私はこの案を支持し、速やかな成立を念願している。

 ただ、これを「一代限り」と決めつけることはよろしくない。何しろ光格天皇(1817年)以来200年行われず、明治典範で否定され、現行典範にも規定されていない「譲位」を、陛下の御意向と現実の必要性から、あらためて可能にするのは、まさに画期的なことである。従って、この新例が実現すれば、おそらくさらに進む次代の超高齢化社会で、再び高齢譲位は不可避となった場合、今回を先例として容易に実現できるに違いない。そういう新しい道を拓くことに大きな意義がある。

 とはいえ、今後もその都度あたふたと特措法で対処することは好ましくない。そこで、今回の法整備に続いて政府も国会も本格的に取り組むべきは、皇室典範の段階的改正である。あえて段階的というのは、現実にも将来にも適応困難な条文が少ないけれども、それらを一挙に解決しようとすれば、無用の混乱を生じかねないので、一つずつ解決していく方がよいと思うからである。

 そのうち、最初に改正すべきは第四条と第八条である。前者は「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」となっているが、この終身在位を一つの原則として残し、もう一つ「又は皇室会議の議を経て退いた時は、皇嗣が直ちに即位する」という規定を付け加えればよい。

 ここに「皇室会議の議を経て」と断るのは、今回のような高齢譲位ではなく、恣意的・強制的な退位問題なども予測すれば、その可否を厳密に審査できる機関として、現在も常設されている「皇室会議」(皇族2名と三権代表8名)で合議することが、最もふさわしいと考えられるからである。

 もう一つ第八条に「皇嗣たる皇子(天皇の男子)を皇太子という。皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫(天皇の男孫)を皇太孫という」としか規定されていない。そのため、新天皇の皇女はもちろん、皇弟も「皇嗣」として位置づけられない。そこで、これを「皇位継承の第一順位の皇族を皇嗣とし、皇太子と称する」と改正すれば、皇弟(秋篠宮)も皇甥(悠仁親王)も「皇嗣」として「皇太子」となりうる。