「理想郷としての欧州」は夢物語か

 
 秋にはEUの主役的存在でもあるドイツで総選挙が行われる。ドイツのメルケル首相はEUの舵取り役となっているドイツで長年にわたってリーダーとして活躍してきたが、難民の流入やテロ事件によって、首相としての地位は決して安泰ではない。昨年12月末にベルリンのクリスマス市で大型トラックを使ったテロが発生したドイツだが、ドイツ国内で「テロ」に認定された事件は、ベルリンの事件を含めると、昨年4件発生している。2月にはハノーバーでイスラム国を支持する15歳の少女が、パトロール中の警察官の首を突然刃物で刺す事件が発生。

 7月にはドイツ南部のヴュルツブルグで、電車の車内で斧を振り回し5人の乗客にけがを負わせた17歳のアフガニスタン人少年が警察官によって射殺されている。この少年は2015年に、難民としての保護を求めてドイツに入国したばかりであった。この事件から5日後には、同じくドイツ南部のアンスバッハで行われていた音楽フェスの会場近くで自爆テロが発生し、15人が負傷している。自爆テロを行ったのはシリアのアレッポから難民としてドイツに入国した男性であった。今年ではないものの、昨年9月には41歳のイラク人男性が、パトロール中の女性警官を刃物で襲い、別の警察官によって射殺されている。

ドイツの首都ベルリンで、
クリスマス市にトラックが突っ込んだ現場=2016年12月19日、ドイツ・ベルリン
 ドイツ国内で今年発生したテロ事件は4件。ベルリンのクリスマス市で発生した事件で容疑者として警察当局が捜索しているアムリ容疑者が実際にテロを起こしていたとすれば、4件のうちの3件で実行犯が難民としてドイツに入国した人物であったことになる。ドイツのEU離脱を目標に掲げて結成された右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、昨年11月の党大会でドイツが受け入れる難民の数に上限を設けるべきとの指針を発表し、難民受け入れの制限をドイツ政府に要求している。Afdは今年9月に行われた世論調査で、過去最高となる16パーセントの支持率を得た。これによりAfDは政権与党のキリスト教民主同盟(CDU)、社会民主党(SPD)に次いで、支持率では第三位の政党に躍進した。
 
 イタリア出身で、現在はドイツ人の夫とベルリンで暮らすサラ・マメッリさんは、「事件そのものにも大きなショックを受けていますが、一連のテロ事件によって国内で移民排斥を主張する政党がより大きな力を持つ可能性を懸念しています」と語る。