差別的な意識が違法行為や人権侵害を引き起こす

 差別的な意識に歯止めがかからない状況は非常に危険だ。なぜなら、差別意識は、違法行為や人権侵害など具体的な行為へと発展していくからである。私たちNPO法人POSSEには生活保護に関わる相談が年間1000件以上寄せられている。その相談事例からは、生活保護の現場で違法行為や人権侵害が蔓延している実態が見えてくる。
 
(1)生活保護の申請権を侵害する水際作戦
 生活保護制度は、本人から申請されることで、受給要件を満たしているか否かの資格調査が行われ、要件を満たしていれば保護が開始されることになる。申請は権利として認められており、どのような理由があってもこの申請を妨げることは申請権の侵害となり、違法行為となる。しかし現実には、ときに暴言を伴いながら、申請をさせないという「水際作戦」が行われている。いくつか事例を見てみよう。

【ケース①】
 食事を与えられないなどの家庭内暴力により実家を出ており、複数の市で生活保護申請したが全て水際作戦にあい追い返され、窓口では暴言を浴びせられた。重病で満足に食事も取れない状態であるにも関わらず、「生きているんだからいいじゃないか」と言われ、申請できなかった。
 このケースに限らず、「ギリギリの状態」で福祉事務所に相談に訪れる人は多い。しかし、「生きているんだからいいじゃないか」と申請をさせず、追い返すということが行われていた。病気のため就労もできず、家族にも頼れないという状況で、生活保護制度の利用を妨げれば、「死んでしまう」可能性もある。

【ケース②】
 20代女性が親兄弟からの虐待から逃れるために単身上京し、警察署で住民票の閲覧禁止措置を取った。その後、女性が福祉事務所で生活保護を申請しようとした際、上記の状況にも関わらず、「親に連絡を取れ」「福祉事務所から親に連絡をする」「実家に帰れ」などの対応がなされた。女性は深刻な精神的苦痛を受け、また生活保護の申請をすることもできなかった。

 この事例では、虐待・DVから逃げてきた女性に対して、加害者である家族に対して「連絡を取れ」、「実家に戻れ」と迫っている。女性はこのような対応をなされたことで深刻な精神的苦痛を受け、行政の窓口で二次被害を与えられたのである。生活保護法だけでなく、DV防止法にも反する違法かつ人権侵害的な対応が窓口でなされている。

(2)生活保護利用者に対するパワーハラスメント
 生活保護制度を利用している人に対する、ケースワーカーによるパワーハラスメントも深刻だ。ケースワーカーは、利用者のニーズに応じて柔軟な援助ができるよう、指導するための裁量を持っている。しかし、すでに見てきたように、現場では差別的な意識が蔓延し、援助の基礎となる専門性を持たないケースワーカーが増加している。その結果、利用者に対して深刻なハラスメントが行われる。

【ケース③】 
 生活保護受給中に妊娠したが、ケースワーカーが出産扶助を出さないと言っており、このままでは出産できなくなる。生活保護では、出産に関わる費用は出産扶助として支出されることが認められている。しかし、このケースでは「出産扶助」を出さないという対応をとっている。これは事実上「中絶しろ」と言っているのと同義である。こうした理不尽な対応をされても、弱い立場に置かれている利用者は、ケースワーカーに対して声をあげることが難しい。彼女は、こうしたケースワーカーの対応によって精神的に不安定な状態に陥り、一時「切迫流産」という非常に危険な状態にまで追い込まれた。

【ケース④】
 過去の怪我の後遺症と持病が原因で足が不自由であるにもかかわらず、ただひたすら就労しろと言われる。生活保護を「(就労しなければ)いつでも打ち切ることが出来る」と脅されている。

 明らかに就労が困難な利用者に対しても、理不尽な就労「指導」が行われることが多々ある。生活保護制度の打ち切りを示唆しながら利用者を脅し、就労を迫るような対応は人権侵害である。利用者は、ケースワーカーの裁量次第で保護を打ち切られてしまうかもしれないという弱い立場に置かれているため、声をあげられず、不当な扱いを耐えなければならない状況を強いられてしまうのである。

 以上のような対応は、単に個人の人権侵害というレベルにとどまらず、社会的にも大きな影響を及ぼすことになる。たとえば、生活保護制度から排除されることによって、生きていくために日雇いや水商売など劣悪な雇用に飛びつかざるをえなくなってしまうだろう。劣悪な雇用で身体や精神の健康を害し、長期的に働くことができなくなってしまうというケースも珍しくない。

 生活保護制度を利用しながらまともな就職活動をすることができれば、中長期的により安定した仕事に就ける可能性があったにもかかわらず、行政の違法行為によってその可能性が奪われてしまう。その結果、働けなくなることでより長期間の生活保護費が必要となり、医療費負担も増大する。

 また、生活保護利用者に対するパワーハラスメントは、精神疾患などを発症させたり、元々の持病を悪化させたりする。それによって利用者の自立は妨げられ、保護の期間はより長期化していく。医療費の負担も増えることになるだろう。