このような事実をもってして思うのは、小田原市では「生活保護とは」「福祉とは」「ソーシャルワークとは」という基本的な教育・研修などがなされていないのでは、ということだ。

 その点について尋ねると、現場には新人が配属されることが多く、先輩ケースワーカーから実務を通して学んでいくということだった。このシステムの弱点は、「悪い慣習」がそのまま受け継がれてしまうことだろう。全国で発生している水際作戦の背景には、役所内で脈々と「違法な対応」が受け継がれ、それが「生活保護の正しい運用」だと誤解していたというケースもある。だからこそ、基本的な研修が必要なのだ。なぜなら、生活保護の窓口は、そこで断られたら命を落としてしまう可能性がある「命の砦」だからである。「誰もやりたくない仕事」なんかではなく、命を守る、大切な、尊い仕事だと思うのだ。

 小田原市で職員が切りつけられる事件が起きた07年には、北九州市で生活保護を打ち切られた男性が「おにぎり食べたい」という言葉を残して餓死している。その前年、やはり北九州市で元タクシー運転手が餓死している。この男性は生活保護の申請に行くものの、追い返されていた。また、12年には札幌市で40代姉妹が孤立死。死因は餓死、凍死とみられている。妹には知的障害があり、姉は生前、3度も生活保護の相談に訪れていたが追い返されていた。そうして14年には千葉県銚子市で、シングルマザーが中学生の娘を殺害する事件が起きている。事件が起きたのは、県営住宅の家賃を滞納し、立ち退かされる日だった。母親は生活保護の相談に訪れていたものの、「働ける」と帰されていたらしい。

 もう2度と、こんな悲しい事件は起きてほしくない。

 幸い、今回、小田原市では死者などが出ているわけではない。が、この10年間、精神的苦痛を受けた人は多くいたはずだ。

 再発防止を求めて、原因究明と検証委員会の設置などを要望し、市側との会談は終わった。

 今後、小田原市がどのように変わっていくか、期待を込めて見守りたいと思っている。