私が北朝鮮内部筋から直接聞いたところによると、2015年後半、金正恩は工作機関である党統戦部や国家保衛部海外パートなどに中国共産党の対朝鮮政策を調査分析するように命じたという。その結果、中国は北朝鮮を改革開放に導こうとしており、金正恩政権がそれに従わず核ミサイル開発を続ける場合、正男を使って金正恩政権の倒すことを検討しているという報告が金正恩に上がった。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と暗殺された金正男氏
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と暗殺された金正男氏
 2016年1月、金正恩は中国の制止を振り切って核実験を断行した。それに対して習近平は激怒した。それを伝え聞いた金正恩は「中国が正男を使って自分を倒しに来るなら、北京と上海に一発ずつ核ミサイルを撃ち込む」と語ったという。

 同年3月には党員らに下された北朝鮮の内部文書「方針指示文」で「すべての党員と労働者は、社会主義を裏切った中国の圧迫策動を核暴風の威力で断固として打ち砕こう」

 「敬愛する最高司令官金正恩元帥様の卓越した領導で、わが祖国は水爆を含む各種軽量化された核爆弾を完璧に備えた核保有国の隊列に堂々と入った。


 これに驚きおののいた中国は、国連制裁の美名の下に東北アジアでの彼らの派遣的地位が揺らぐことを恐れ、制裁に同調している。

 造成された現在の情勢は、われわれ党員と勤労者たちが東北アジアでの政治、軍事、経済的与件を追い求める中国の対北朝鮮敵対視策動に断固として抗い、戦うことを切実に要求している」と中国への核攻撃を示唆していた。

 金正恩からすると正男が中国に保護されていること自体が、自身に対する中国共産党の銃口に見えていたのだ。この恐怖が正男暗殺の一番の動機だと思う。

 ただし、今回の暗殺テロはあまりにも稚拙だった。金正日時代のテロは緻密な準備作業を行ない、プロ級の工作員を使って行われた。日本人が多数拉致されたのも、テロを行うが北朝鮮の犯行だと発覚しないように工作員を外国人に偽装させよという金正日の秘密指令にもとづくものだった。

 今回は監視カメラがまわっている白昼の空港でテロを行ない、実行犯の女性は準備された車両でなくタクシーで逃走して、数日後に逮捕された。そのとき、彼女らは自殺を企図してもいない。これでは金正恩がテロリストであることが全世界に知れ渡る。このようなやり方を避けるべきだという正論を金正恩に告げる側近が誰もいない位、金正恩は政権内で孤立している証拠だ。数年前から軍、党、治安機関、政府などの幹部クラスの亡命が相次いでいる。金正恩政権はこれからも致命的な政策判断ミスを続けながら自壊の方向に向かうのだろう。