そして、こうした「テロ未然防止法」ですが、もともと2020東京大会に関連するテロ対策法であるので、その効力も大会終了時頃まで(時限立法)のものが望ましいというのであれば、それも選択肢だと思います。
   
 いうまでもなく、政治の大きな役割は、国民の命を守ることにあります。テロに特化した「テロ未然防止法」の整備を今行わなければ、国民等の生命及び我が国の信用を危殆に陥れるものです。想定外のことへの対応では決してなく、まさに想定内の危機管理の問題です。
 
 ことは、国民の大多数の命を守る気概が政府にあるかどうかの問題です。残された時間は最早少なく既に砂時計状態です。

3  いわゆる共謀罪創設法案の射程範囲

 報道によれば、政府が「テロ等準備罪」(以下、「いわゆる共謀罪」と云う)を新設すべく、それに関わる法律案 (組織犯罪処罰法改正案)を平成29年通常国会に提出すべく用意しているようです。

 しかし、名称にいくら「テロ」の言葉を盛り込んでも、専門家の私から見て、この法案では、国民の多くの命をテロから守るためには効果が乏しいです。

 私は、まさに、かつてこの組織犯罪処罰法の適用に係る捜査責任者、及びテロ関係の責任者に就いていた関係からこのように申し上げることができます。追って詳述します。

 ですから、いわゆる共謀罪を法律化すればテロ対策に相当役立つと考える政治家がいらっしゃるとすれば、それは所管の官僚がそのように説明し、それにごまかされています。

伊勢志摩サミット、東京五輪を見据えて外国人テロリストによる
バスジャックを想定した対応訓練が福生署管内の富士見公園で
行われた=2015年6月18日、東京都羽村市緑ケ丘
伊勢志摩サミット、東京五輪を見据えて外国人テロリストによる
バスジャックを想定した対応訓練が福生署管内の富士見公園で
行われた=2015年6月18日、東京都羽村市緑ケ丘
 その上、いかにもテロ防止に資するような名称を付け、これでテロ対策の法律としてひと安心という誤った意識を国民と政治家に抱かせ(ミスリ−ディングする)、テロ未然防止法(仮称)の制定に至らないこと自体、何よりも極めて危険です。

 政府がこの法律改正案(いわゆる共謀罪)を国会で通過させたいと考えているのは、16年前に署名した「国際組織犯罪防止条約」を締結するためには、この法改正が必要条件だからという理由です。
 
 しかし、この条約のターゲットは、そもそも、不正な『金銭的利益』等に絡む国際組織犯罪の防止です。ですから、所管官僚等において、「テロ対策といえば法案を通過させやすい」という思いがあるとすれば、法律の作り方としては邪道です。

 とにもかくにも、政府は、テロに特化した「テロ未然防止法」の制定に早急に取り組むべきです。にもかかわらず、国民をミスリーディングする恐れのある形でいわゆる共謀罪だけを通過させるようなスタンスでは、テロ対策に係る政府の責任の放棄です(組織犯罪撲滅に向けてのいわゆる共謀罪自体の導入を政治課題とすること自体に異論はありません)。

 今は、国民の命を守るため、まずテロ対策に特化した「テロ未然防止法」の整備が緊急事態なのです。【この記事は、主に「水月会」のブログからの転記です】
(若狭勝オフィシャルブログ「法律家(Lawyer)、議員(Legislator)、そのL字路交差点に立って」2017年1月17日分を転載)