実は海外の経済政策の動向をみると、アベノミクスが「標準装備」になってきている。背景には、欧州やイギリス、そしてアメリカなど先進国経済圏が直面する、リーマンショック以降の経済低迷が「長期停滞」ではないか、という問題意識に支えられたものだ。つまり経済には新たなフロンティアがなくなってしまい、そのために景気が回復したとしても以前のような成長経路には戻らない、一段も二段も低めの成長経路になってしまうという「構造的」な認識である。

 これを解消するためには、積極的な金融政策だけでは改善の余地が限られている(金融政策が役立たないのではなく、効果があるが不足しているという意味であることに注意!)。むしろインフラ投資など長期の政府支出が可能になるような財政政策の枠組みを再構築し、同時に規制緩和や貿易の自由化などもすすめていこうというのが、最近の経済政策の大きな流れである。この海外版アベノミクス(積極的で非伝統的な金融政策の採用、長期の財政政策、構造改革の三点セット)は、先進国の経済学者やエコノミストによってここ1、2年特に強調されている。

 例えば、暗殺された金正男氏の長男、キム・ハンソル氏が通っていたことで注目を集めたフランスの超エリート校パリ政治学院の経済学者フランチェスコ・サラセノ氏は、論文「ケインズがブリュッセルにいくとき:欧州経済通貨統合の新しい財政ルール」(2016年)の中で、先進国が従来の景気コントロールに利用していたルール(金融政策中心、財政政策は消極的)を変更して、財政政策と金融政策の協調、特に財政政策の推進を新ルールの中心にすべきだとしている。ちなみになぜケインズ(財政政策の比喩)がブリュッセルにいくかというと、そこに欧州連合(EU)の本部があるからだ。

 このような財政政策中心の政策ルールの変更は、むろんサラセノ氏だけではないことはすでに指摘した。オリバー・ブランシャール元IMF専務理事や、ハーバード大学のローレンス・サマーズ教授など世界的に影響のある経済学者たちの多くが主張している。最近来日し、経済財政諮問会議で安倍首相の前で日本の望ましい政策を提言した、コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授もそのひとりである。
経済財政諮問会議に臨むコロンビア大のジョセフ・スティグリッツ教授(左)と経団連の榊原定征会長=3月14日、首相官邸(斎藤良雄撮影)
経済財政諮問会議に臨むコロンビア大のジョセフ・スティグリッツ教授(左)と経団連の榊原定征会長=3月14日、首相官邸(斎藤良雄撮影)
 スティグリッツ教授の提言は、日本の財政政策のスタンス変更を熱心に説くものである。日本のマスコミでは完全に無視されていたようだが、消費増税による経済失速を批判し、また他方でこれからの消費増税の回避を説いている。その上で日銀が保有する膨大な国債の大部分を「永久国債化」することを提言している。

 つまり、いま日本銀行が抱える膨大な中長期国債をほぼすべて永遠に日銀が保有し続け、国に償還を要求しないことと同じである。そうすることによって政府の「財政不安」のかなりの部分が瞬時に解消されるとしている。ただしスティグリッツ教授には誤解があると思う。すでにアベノミクスはこのスティグリッツ提案と同じことを実現しているからだ。事実上、日本に財政危機は存在しない。この点は以下の論説を参照されたい(http://www.newsweekjapan.jp/tanaka/2016/04/post-2_2.php)。