ところで、安倍政権は「質の高い日本のインフラを世界に売り込む」とし、日本が主導するアジア開発銀行(ADB)や政府開発援助(ODA)を通じた融資を含め、アジアのインフラ整備に2015年からの5年間で約13兆円の資金を投じると表明している。実は、この成否のカギを握るのも途上国の腐敗である。せっかくの援助資金も対象国の公務員が腐敗していれば、ワイロで中抜きされてしまう。日本がODA大国となった今、途上国公務員の腐敗は日本の税金の無駄遣いに直結するといっても過言ではない。

ベトナムのフック首相(右)と記念撮影で握手を交わす
安倍晋三首相=2016年5月16日
ベトナムのフック首相(右)と記念撮影で握手を交わす 安倍晋三首相=2016年5月16日

 また、インフラを担う日本企業が対象国の公務員にワイロを送り、それが露見して莫大な罰金や和解金を支払うケースもしばしば起きている。以下に示すのは、2011年以降に発覚した関連事件と日本企業が支払った賠償金や和解金である。

2011年 日揮ナイジェリア事件 米国司法省に罰金2億1880万ドル

2012年 丸紅ナイジェリア事件 同和解金5460万ドル

2013年 ブリジストン 中南米事件 同罰金2800万ドル

2014年 丸紅 インドネシア事件 同罰金8800万ドル

2015年 日立 南アフリカ事件 同民事制裁金1900ドル 

2016年 オリンパス 中南米 同和解金2280万ドル

2015年 日本交通技術ベトナム、インドネシア、ウズベキスタン事件 日本の裁判所に罰金9000万円

 これらの事例をどう考えるべきだろうか。単に「ワイロを送った日本企業が悪い」と捉えがちだが、実はそんな短絡的な話ではない。事件が起きた国をみると、いずれも腐敗度が高い国ばかりである。そういった国では、公務員にワイロを送らなければ、役所は手続きさえ進めてくれない。日本交通技術の事件がその典型例である。同社はJR系のコンサルティング会社だが、日本のODAによるベトナムの鉄道建設において、技術入札で1位指名を受けていたにもかかわらず、ベトナム側の担当者が「内部会議のため経費が必要」としてワイロの要求を繰り返した。それが後に国税調査で発覚したのである。腐敗の高い国での取引には、より慎重になって交渉相手からのワイロの要求をかわさなければ、対象国で得た利益が結果的に多額の賠償金や和解金で吹き飛んでしまうこともある。とはいえ、これらの国々でもメディアやインターネット、公益通報制度は存在する国も多いので、昔よりも格段に贈収賄事件が発覚しやすくなっている。

 先進国はOECD外国公務員贈賄防止条約を結び、互いに国際商取引で進出先国の公務員にワイロを送らないという約束をしている。特に米国法は厳しく、もし外国企業がアジアやアフリカで送ったワイロであっても、その企業が米国で上場していれば自国法の適用が認められており、贈収賄事件に絡んだ外国企業が米国司法省に支払った賠償金の総額は突出して多い。これは日本企業を狙い打ちにしたものではなく、米国企業も厳しく処罰されている。

 世界の公務員「腐敗度ランキング」は、今や日本のODAの有効性や輸出企業の収益にも密接な関係がある。だからこそ、政府も企業もこうしたデータをうまく活用し、対策を講じることが自国の利益を守ることにつながるのではないだろうか。