そして、東京大。工学部や医学部など横断的、学際的な新機構がつくられた。そこを取材してみると、広報担当者には文学賞で有名な出版社の元編集者が就いていた。なぜ編集者が重宝されているのか。こうした人たちに会うたびに尋ねてきたが、その答えはだいたい似たものだった。
東京大学の安田講堂
東京大学の安田講堂
 情報収集と情報発信である。この答えだけでは、きわめて凡庸に聞こえるが、重要なのはその目的だ。ある広報担当者は科研費獲得のためですよと語っていた。
 「いかにうちの大学が学術の世界で貢献しているか。それを一般に周知させる(アウトリーチ)させるのが最初の目的。と同時に、そうして周知を図る中で、国に対してその効果を訴えかける。そこで研究への理解を得ることが科研費の獲得につながるからです」
 どういうことか、すこし迂遠だが説明したい。

 科研費とは、研究者の申請に基いて文科省や日本学術振興会から支出される研究資金のことである。個々の研究者は自らの研究を深めるべく、予算を学内外に申請するが、そこで大きな予算を獲得できるのは科研費をおいてない。素粒子物理学や工学系など大きな予算を必要とする研究では年あたり数千万円から数億円という大きなプロジェクトもある。

 こうした大きなプロジェクトを遂行できるということは、さまざまな意味で大学に影響がある。第一に大きな予算をかけられるだけ将来有望な研究であると見られること。第二にそうした研究を行うことで、外部からすぐれた研究者がやってくること。第三に学生に対しても有望だということを訴えることができる。

 小泉政権以降、文科省では「21世紀COE(センター・オブ・エクセレンス)プログラム」「グローバルCOEプログラム」「スーパーグローバル大学」などの枠組みのもと、有望な研究部門や研究領域には重点的予算をつける傾斜配分がとられてきた。この予算が獲得できれば、大学にとって大きなステップとなるものだ。

 だが、こうした科研費の獲得はけっして簡単ではない。

 科研費は文科省の外郭団体や日本学術振興会などで評価・審査されるが、そうした審査の際、いかにその研究が有意義なものであるか、所属する学会で認められることが第一だが、それとともに、いかに社会に貢献しているかを伝えられないことも昨今では重要になっている。税金を投じるにあたって、説明責任が求められるような社会背景が醸成されてきたためだ。

 そうなると、科研費の獲得のためには2種類の人材が必要になってくる。一般向けには自校のPRを情報発信できる人物。この役割が元編集者だったのだろう。

 では、運営方針を伝え、予算を獲得する文科省対策にはどうすべきか。そう考えたとき、内部事情に通じた人物の獲得として、文科省の元役人を想定したとしても不思議ではない。個々のケースというわけではなく、あくまでも外形的な事情から言えば、天下りはけっして不思議ではない話だったのである。