☆保守言論人・文化人を「広告塔」に寄付を集めた三つの事例☆
1)映画『南京の真実』製作のために寄付金 約3億5000万円 2007年の事例

 2007年、旧日本軍が日中戦争時の南京攻略(1937年)の際、多数の非戦闘員を虐殺したとされる事件、所謂「南京事件」は、中国共産党などのでっち上げであり、日本側は潔白だとする趣旨の映画『南京の真実』(監督・水島総)の製作発表会が、同年1月、東京都のホテルニューオータニを貸し切って大々的に行われた。

 いわずもがな、「南京大虐殺でっち上げ論」は、保守派・右派とみなされる言論人や文化人らが口にする常套句で、「南京大虐殺でっち上げ」は、保守の言論空間に影響を受けたネット保守の世界でも常識化しており、同映画の理念はその保守派の掲げる思想を物語映像として具現化することにあった。

 同映画の製作母体は、2004年に誕生したばかりの独立系保守CS放送局の日本文化チャンネル桜(のちに株式会社チャンネル桜エンタテインメントに引き継ぎ)。しかし自己資金に乏しかったので、同映画の製作費の大半を外部からの寄付に頼ることになり、「保守界隈で著名な言論人や文化人を理事や広告塔として起用し、それを「梃子」として多額の寄付金を集める」手法を展開した。
(写真はイメージです)
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 映画『南京の真実』への賛同人として公式サイトに掲載され、あるいは同ホテルで応援演説ならぬ決起集会にて激しく賛同の意を示したのは、以下に一部列挙する通りのこれまた保守界隈のそうそうたる面々であった。

 石原慎太郎(東京都知事)、渡部昇一(上智大学教授)、稲田朋美(衆議院議員)、平沼赳夫(衆議院議員)、西村眞悟(衆議院議員)、櫻井よしこ(ジャーナリスト)、高橋史朗(明星大学教授)、井尻千男(拓殖大学日本文化研究所所長)、椛島有三(日本会議事務総長)、田久保忠衛(杏林大学客員教授)、田中英道(東北大学名誉教授)、中西輝政(京都大学大学院教授)、藤井厳喜(拓殖大学客員教授)、藤岡信勝(拓殖大学教授)、古庄幸一(元海上幕僚長)、水間政憲(ジャーナリスト)…etc(肩書はいずれも当時)

 まさに「保守言論人・文化人総動員」ともいうべき煌びやかな肩書を持つ賛同人の数々だ。この甲斐あってか、映画『南京の真実』には当初予想を大幅に上回る約3億5000万円以上(2017年1月時点)が集まり、記者発表からちょうど1年後の2008年1月に映画『南京の真実』は無事に公開され、支援者や好事家から一定の評価を得た。しかしながらこの『南京の真実』の構想は、記者発表時点で「三部作」と明示されており、2008年1月公開のものは第一部に過ぎなかった。

「三部作」のはずが一部しか完成せず…

 では残りの第二部、第三部はどうなるのか。実は第一部の公開から約9年を経た現在でも、当初公約された「三部作」の完全製作は行われていないのである。これには一部の支援者からも相当の不満の声が上ったことは言うまでもない。ところが2017年になって、唐突に「第三部」の製作発表が行われ、東京・渋谷区のユーロスペースで試写が行われたが、肝心の公約たる「第二部」の公開は9年を経てもなお実現していない。

 「保守界隈で著名な言論人や文化人を理事や広告塔として起用し、それを「梃子」として多額の寄付金を集める」手法を展開し、その条件として「三部作」の製作を確約しながら、9年を経てもなお半分強(2/3)しか約束を果たしえないのは、寄付者からの批判を受けても致しかたない事例であろう。

 もっとも森友学園の様にこの案件は自治体から補助金を詐取しようという試みではないし、純然たる映画製作構想であった。往々にして芸術作品の製作に長期の時間がかかるのはよくある事例(例:2015年に世界公開されて熱狂的な支持を得、興行的にも大成功したジョージ・ミラー監督の『マッドマックス4(怒りのデスロード)』は、なんと構想17年を要している)であるから、一抹の酌量の余地はあることは、彼らの名誉のためにも弁護しておかなければならない。

 しかしながら、この時「賛同人」としてあたかも広告塔に使われた人々は、みなこの「公約違反の疑い」に一様に沈黙を守っている。

 狭い保守界隈=保守ムラが故に、理論整然たる理詰めの反撃や論争より、「情」が勝って、「まあまあ、そんなに批判しては可哀想ではないか。まあまあ良いではないか。おなじ保守同士波風を立てない方がよいではないか」というムラ的馴れ合いが先行したからではないか。

 2007年度、あれだけ大々的に約束した「三部作制作の公約」が実現するめどは、具体的にいつになるのか判然としていない。そしてまた、寄付金が現在に至るまでどのような名目で支出されているのか、その具体的な内訳も、公にされていない、とする批判者も存在する(対して製作者側は、これについて数次に亘って詳細に反論を行っている)。