「鉄のお嬢さん」には「鋼鉄の処女」という意味もあります。これはイギリスを代表するヘビーメタルバンド「Iron Maiden」のバンド名の元ネタであり、中世の拷問器具の名前でもあります。これは乙女の形をした鉄の人形の中は棘(とげ)だらけで、人が中に入れられてガチャンとされると足元から血が滴るという恐ろしい拷問具です。

 こんな「拷問具」に例えられたメルケル首相の政治手腕というのは、科学者らしく大胆かつ現実主義的で冷静沈着であります。政敵は容赦なく叩きのめし、時には自分の師匠にさえとどめを刺します。

 メルケル首相が政治の表舞台に立つきっけかけは、コール元首相の弟子になったことでした。コール氏の党費流用疑惑が起きた時は「責任を取るべきだ」とドイツの新聞が厳しく批判しました。このとき、メルケル首相は自分の身内であっても、正しくないことは正しくないとコール氏を批判し、筋を通したのです。

 このような厳格な態度は、メルケル首相の地味でドイツ人らしさを絵に描いたようなキャラとあいまって、ドイツ国内で絶賛され、ドイツキリスト教民主同盟(CDU)党首に就任します。

 党首就任後も、おしゃれや華やかさとは無縁でドイツ人らしく倹約や厳格さを善とし、着実に忍耐強く物事を進めていきます。無駄使いで国が破綻したギリシャへの緊縮財政を要求し、福島の原発事故を受けて原発全廃と再生可能エネルギーへの転換を決定します。

 このような媚びない態度、ぶれない姿勢はドイツ国内だけではなく、欧州でも尊敬されるリーダーとして注目を浴びています。ここ数年は、欧州におけるドイツの「一人勝ち」的な立場や、シリア難民受け入れに関する決定で他国からの批判を浴びていますが、しかしながら、周辺国の経済が芳しくない中、ドイツ経済の好調を維持する手腕は今なお評価されています。

 そんなメルケル首相は、スーパーで寿司の材料を買って、レジで列に並んでいるところを目撃されたりしています。SPもつけず地元の主婦に混じって買い物をしているのです。派手な生活とは一切無縁なのです。ただ、そこはドイツなので首相を目撃しても誰も何も言いません。
歓迎式典でメイ英首相(左)を迎えるメルケル独首相=2016年7月21日、ベルリン
歓迎式典でメイ英首相(左)を迎えるメルケル独首相=2016年7月21日、ベルリン
 イギリス首相も女性です。

 テリーザ・メイ首相は、キャラクター的にメルケル首相と被るところがあります。牧師で、厳格かつ質素な家庭に育ちます。学生のころは難病で車椅子の母親を看病しながら勉学に励んでいました。

 オックスフォード大学の学友であった夫との結婚式の当日、会場に向かおうとしたお父さんが自動車事故で亡くなります。その数年後にお母さんも亡くなるという不幸にも見舞われます。I型糖尿病を抱えているので、会議ではこっそりとナッツをかじりながら血糖値を管理して仕事をするというストイックな面もあります。