フランス経済は簡単にいえば、より積極的な財政政策を必要としていることは明白だ。だが、EUの中心国であるドイツは相変わらず財政規律を重視するスタンスを崩していない。フランスはユーロ圏でもあるので、金融政策は自国の自由にはならず、また積極的な財政政策もEUの制約に服さなければいけない。マクロ経済政策的には自由度がかなり限られている。
フランス大統領選の投票所近くを警備する兵士=4月23日、パリ(AP=共同)
フランス大統領選の投票所近くを警備する兵士=4月23日、パリ(AP=共同)
 フランスやイタリアの有力な経済学者の多くは、EUにおける積極的な財政政策を支持している。例えば、パリ政治学院の経済学者フランチェスコ・サラセノ氏は、論文「ケインズがブリュッセルにいくとき:欧州経済通貨統合の新しい財政ルール」(2016年)の中で、先進国が従来の景気コントロールに利用していたルール(金融政策中心、財政政策は消極的)を変更して、財政政策と金融政策の協調、特に財政政策の拡大を新ルールの中心にすべきだとしている。ちなみになぜケインズ(財政政策の比喩)がブリュッセルにいくかというと、そこにEUの本部があるからだ。

 ドイツ経済も最近の指標をみると、ここ最近では輸出が力強さを回復し、ドイツ経済にとっては現状の政策を大きく変える動機はない。これに加えてドイツの政策担当者や経済学者たちの間では、財政の規律(秩序)を重んじる勢力が根強い。この秩序(オルド)を重んじる経済思想の風土は、戦後のドイツ経済思想の根幹といっていい。

 「オルド自由主義」ともいわれる経済思想は、戦後のドイツの経済政策を考える上では欠かせない要素である。オルド自由主義の特徴は、ルペン氏や米国のトランプ政権を支えているようなポピュリズム的傾向を否定していることで知られている。例えば、大衆消費、大衆向きの生産が拡大し、それが産業の独占化を招き、経済を閉塞(へいそく)してしまう、というのがオルド自由主義のひとつの見方である(竹森俊平『逆流するグローバリズム』PHP新書など参照)。

 また、債務=借金を否定的にとらえている倫理的な価値判断も強く、そのため積極的な財政政策を嫌い、財政的な秩序を重んじるのである。簡単にいうと、大衆の欲求よりも、道徳的な秩序を最優先に考えるものだ。このオルド自由主義の経済思想が、ドイツの経済政策や世論さえも拘束している。

 フランス経済は要するにこのドイツの経済思想のわなにはまっているともいえるだろう。経済低迷を脱することができないために、不満は社会の中のごく一部、ただし大衆にもわかりやすい「問題」に向くことになる。それが「移民問題」である。フランス国内の若年層や低所得者層の雇用を、移民が奪ってしまう。そのことで自分たちの失業率が高まり、また職を得てもより低い生活状況に甘んじなければならない、という不満に論点が移行してしまっている。