だが、本当に移民(外国人労働者)がフランスの雇用を奪ったのだろうか。欧州の統合に関する代表的な教科書『欧州統合の経済学』(未邦訳)を書いたジュネーブ高等国際・開発問題研究所のチャールズ・ワイプロツ氏とリチャード・ボールドウィン氏によれば、移民が(フランスを含めた)EU内諸国に失業の悪化などをもたらした証拠は乏しいと指摘している。またむしろフランスへの移民は事実上かなり制約されてもいることを指摘している。簡単にいうと、フランスに移動することは、法的には容易なのだが、フランスの労働市場が、経済的な意味では排他的な市場だということだ。つまり、フランスの高い失業率は、移民によるものというよりも、フランス国内の労働市場に内在する問題だ、ということになる。
第1回投票が始まったフランスの大統領選で票を投じる有権者=4月23日、リヨン(ロイター=共同)
第1回投票が始まったフランスの大統領選で票を投じる有権者=4月23日、リヨン(ロイター=共同)
 フランスの失業率は、1970年代初めは3%台を切る水準だった。それが急速に上昇し、9%台がほぼ定位置になってしまった。この要因については、フランスの未熟練労働者や若年労働者がきわめて低い報酬しか受け取っていないことに原因がある。そのために、求職の意欲を失いやすい。求職の意欲を喪失している期間が長ければ長いほど、その人の人的資本の蓄積は阻害され、「腐敗」しやすくなる。いざ働こうとしても自分の能力に見合った職が見つからずに、長期の失業状態が続いてしまう。また運よく職についても高い技能を要さない職しか見つけることができないために、さらに人的資本を伸ばすことがないままになる。これらがフランスの構造的失業の主因だろう。

 この裏側には、労働組合などの交渉力の強さがあり、既存の産業(職種)への手厚い保護が存在することは明白である。つまり特定の産業(職種)への保護はあっても、本当の労働者の保護に欠けているのである。このフランスの閉鎖的な雇用環境が、外国人労働者に避けられているところなのだろう。

 ちなみに同時期のイギリスとの対比をみると興味深い。イギリスもまた80年代後半までにフランスと変わらない10%近い失業を経験していた。それが90年代以降は急速に低下して約5-6%の間で推移してきた。これはイギリスの(フランスに比して)よりオープンな雇用環境、さらにはユーロ圏に所属していないために金融政策の自由度が高いことなどがその主因だろう。いわゆるリーマンショック後は、イギリスも失業の上昇に悩まされてはいるが、それはフランスのような、がんじがらめの状態に比較すればまだましである。

 フランス経済をみると、そこにEUの悩みが集約して現れている。今後の大統領選挙の結果次第では、ヨーロッパには大きな変化が生まれるだけに注目していきたい。