オバマ政権後期からアメリカは着実に、しかし慎重に対中国政策を変更している。直接の動機は中国軍の南シナ海での軍事行動だった。「航行の自由」作戦、フィリピンとの安保条約改訂、米空母のベトナム寄港、オーストラリアのダーウィンへの海兵隊駐留、そして台湾への梃子(てこ)入れと沖縄米軍基地の拡充を急いできた。

 日本はこの動きをじっと見てきたのではない。周辺国を説得し、プロジェクトを持ち込み、船舶や潜水艦技術などもフィリピン、ベトナムに供与した。

 日本の内閣府による2016年11月の「外交に関する世論調査」でも、中国に「親しみを感じない」と答えた日本人は圧倒的に多く80・5%となった。中国に対する親近感は、比較可能な1978年の調査から40年弱で完全に逆転しており、日本人の国民感情の冷え込みは顕著である。

 ならば、アメリカ人の中国観はどう変貌したか。

 レーガンの反共路線時代は、アメリカにとって主要敵はソ連であり、ブッシュ時代にゴルバチョフが登場して東西冷戦が終結すると、ソ連がたちまちにして崩壊し、新生ロシアとアメリカは急速に仲良くなった。

 ロシアはアメリカの敵ではなくなった。アメリカの政治学者フランシス・フクヤマは「以後の世界は自由経済でまとまる」と楽天的予測を著書『歴史の終わり』のなかで展開し、日本でもベストセラーとなった。ソ連は瓦解したが、軍拡著しい中国が新たにアメリカの仮想敵となった。歴史は終わらなかった。フクヤマの予測は外れた。

米ワシントンの歓迎式典に出席するオバマ大統領(右)と中国の習近平国家主席=25日(ロイター)
米ワシントンの歓迎式典に出席するオバマ大統領(右)と中国の習近平国家主席=2015年9月25日(ロイター)
 ブッシュ、クリントン、ブッシュ・ジュニア、オバマの歴代政権は中国との直接的な対決を極力回避し、融和的で微温的な姿勢で対中外交に取り組んだ。とりわけ中国の代理人とまで酷評されたキッシンジャーがG2(米中二極体制)を提唱し、これを受けたアメリカの政治学者ブレジンスキーなどは米中関係は蜜月、今後も「新しい大国関係」となり、均衡を取りながら世界を主導すると倒錯した議論を展開した。

 だが、そのような甘い中国観は南シナ海における軍拡、その侵略的行為であるサンゴ礁埋め立て、軍事基地建設、滑走路建設などに見られるように直接的にアメリカにとっての脅威となり、その結果、アメリカの対中姿勢はがらりと変わる。

 日本のメディアはあまり報道しないが、米中関係は急速冷凍のように冷え冷えとしているのである。

 トランプの中国認識は強硬論一色である。その側近らのなかにも中国に甘い人間はいない。大統領選挙中、トランプは次のように繰り返した。

 「2000年、クリントン政権の後期にアメリカは中国のWTO(世界貿易機構)加盟を認めた。農業から通信機器、自動車から航空機までアメリカの製品は中国市場へのアクセスが増えるため、この取引はアメリカに裨益(ひえき)するとクリントン大統領は言ったが、実際には中国との貿易アクセスのお陰で、アメリカは50万の工場を閉じた。クリントンの言ったことはすべて嘘だった」

 トランプは中国に対して強い語彙を選びながら、以下のように続ける。

 「中国との通商の失敗が代表するようにワシントンの政治家がやったことはアメリカ経済の失敗につながった。中国との交渉で必要なのはタフな交渉力とリーダーシップである。ウォール街の権益のみならずアメリカの労働者、製造者の利益を護るために力強い交渉を中国とやり直すべきである」

 トランプの中国論は抽象論とはいえ、わかりやすい批判である。単純に中国を仮想敵として置き換えることによって労働者、一般納税者へ訴えるパワーがある。

 トランプは南シナ海の中国の軍事力拡大にいらだち、極東ならびに南シナ海でのアメリカ軍のプレゼンスを明確に拡充せよと言っているのであり、オバマのように優柔不断ではなく、南シナ海における中国軍の横暴には断固として対抗措置を講じると宣言している。こうした背景を照覧すれば、アメリカと中国の対決が本格化することは間違いないだろう。