なんでもかんでも日本国憲法、特に9条のせいにして、できることすらやらない。
 政界では社会党が「やられ役」だったが、言論界では護憲派は常に多数であり続けている。改憲派が「やられ役」に甘んじているとしたら、社会党やかつての阪神タイガースを嗤(わら)えるだろうか。

 社会党の末路は哀れだが、阪神タイガースは一人の傑出した指導者により蘇った。
 野村克也監督である。野村監督は、阪神タイガースの完全な外様であり、異分子だった。それだけに、ぬるま湯体質を容赦なくぶち壊し、選手に基礎を徹底的に叩き込み、フロントやファンを教育した。野村監督の時代には成果が出なかったが、次の星野仙一監督の時代からは二年に一度優勝する強豪チームに生まれ変わった。
 憲政史家を名乗る私の役目は、野村監督のようなものだと思っている。

一、 負け犬根性から抜け出す。
二、 何が勝利なのか、明確に目標を定める。
三、 憲法学に関する基本的な議論を普及する。
四、 小さくても良いから、勝利を積み重ねる。

 ここまでできれば、御の字と思っている。

 何だかんだと自民党の存在価値は何か。国民を食わせることである。
 安倍首相がいかなる失政をしようが、民進党が何をわめこうが、経済で間違わない限り安倍内閣は安泰だろう。

 現在の経済状態は、20年に及んだ大デフレ不況から、緩やかに回復しつつある。回復しつつあるのは日銀の「黒田バズーカ」の破壊力の効果であり、「緩やか」でしかないのは消費増税8%の威力である。何とか10%の再増税を阻止し、黒田東彦日銀総裁が追加緩和を行ったので何とか日本経済も回復してきた。

 今や失業率は2%を切るまでに減り、都内アルバイトの時給は1000円を下らず、大学生の就職はバブル期並みまで回復した。
安倍内閣を支えているのは、少数の熱心な保守ではない。アベノミクスの恩恵を受けている多数の日本国民である。特に若者の支持率が高い。
参院予算委員会で答弁する安倍晋三首相=2017年2月
参院予算委員会で答弁する安倍晋三首相=2017年2月
 ならば、景気回復を加速させて憲法改正に有無を言わせない世論の支持を得ればよい。詳述はしないが、金融緩和の加速、インフレ目標の引き上げ、消費減税、財務省人事への介入など、いくらでもやることはある。何より最も効果的な財政政策は、防衛費増額である。トランプの望む通り、来年度から5兆円の増額を打ち出せばよい。外為特会を10年切り崩しても、まだ財源におつりがくる。

 希望はある。
 キーマンは、日銀政策決定員会審議委員に安倍首相が指名した片岡剛士氏である。片岡氏は歴代民主党政権を批判、現在アベノミクスと呼ばれているような経済政策を主張したリフレ派の論客である。その中でも、アベノミクスにはまだまだやれる余地があるとの立場での指摘をしてきたエコノミストだ。安倍首相はその通りやれば良い。
 果たして、安倍内閣の生命線である経済政策、国際情勢、そして政局が一つの問題だと考えられるだろうか。憲法改正は、この三つの別の問題に見えて一つの問題の先にあるのだ。

 世の人は「安倍右傾化内閣」と言う。あるいは逆に、そうした批判に耐えて政権運営している安倍首相を「良くやっている」と評する人もいる。本当だろうか。
では、仮に考えてみよう。
 現在、東アジアの緊張が高まっている。現在どころか、ソ連崩壊以来、常に高まりっぱなしである。米中露の三大国に加え、ならず者の北朝鮮までが核武装して睨み合っている。日本と韓国だけが平和ボケして、当事者意識を無くしている。

 こうした中で、安倍首相の「緩やかな景気回復」「申し訳程度の防衛費増額」「民進党よりはマシだから高支持率で内閣は安泰」の状態が、後世の評価に耐えられるだろうか。
 現実には考えにくいが、まったく無い訳ではない仮定の話をしよう。
 何かの拍子で、東アジアで大戦が起きる。その時、ヒトラーやスターリンに侵略された第二次大戦の小国の如く日本が蹂躙されたとして、その時の安倍首相を「よくやっていた」と称揚できるだろうか。あるいは、安倍内閣がそうした最悪の情勢への備えをしていると自信を持って言えるだろうか。

 ここまで言って、「北朝鮮のミサイルが落ちるまで日本人は気付かない」などと何もしないなら、それこそ護憲派と同じである。
賢明な読者諸氏は、自分が何をすべきかを考えてほしい。

 なぜ憲法改正ができなかったか。
 憲法改正など目的ではなく、自主防衛への手段にすぎない。こんな基本的な認識すら忘れているのだから、勝てるはずがないではないか。