それゆえ、近ごろの憲法改正論議を見るときに持っておきたいのは、家の例えでいえば、「その改築をするために、本当に土台や柱、はりの入れ替えや増設をしなければならないのか」という視点である。これらの工事に踏み切るならば、時間も費用もかかり、またそれによって建物全体のバランスが崩れてしまう恐れもある。そのような諸々のリスクを冒してまで工事を検討するというのであれば、建築の専門家の意見も聞いて、慎重に議論を進める必要があるだろう。憲法改正論議も同じである。そのような視点からみると、近ごろ議論されている憲法改正の提案内容の多くには疑問を抱かざるをえない。

 例えば、緊急事態時の国会任期延長を憲法典に盛り込むべきとの提案がある。これは、憲法54条1項が「衆議院が解散されたときは、解散の日から40日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から30日以内に、国会を召集しなければならない」と定めているところ、衆議院解散後に、例えば首都圏を含む広範囲にわたり大規模な地震が発生して、40日以内に総選挙を行うことができなくなる事態が起きれば憲法違反となるので、それを避けるために緊急事態時の国会任期延長を憲法典に盛り込むべきではないか、という提案である。

 しかし、公職選挙法は、天災などで投票が行えない場合のために「繰延投票」という仕組みを予定しており、一部の被災地域で40日以内に投票できなかったとしても、全国的にみて40日以内に総選挙を実施できているのであれば、憲法に違反しないと考えられる。大規模かつ広範囲の災害といっても、定足数の3分の1の議員すら選出できなくなる事態は考えづらい。

 現在の仕組みでは、全国で一つの選挙区である比例代表は、被災地域の投票数が確定しないとすべての議席を確定することができず議員を選出できない、つまり、475人の衆議院議員のうち180人の比例代表選出議員が選出されないとされているが、一部の議席を暫定的に確定する技術的な工夫も考えられるし、ブロック別にしたり比例代表選出議員数を減らしたりするなどして対処することができるだろう。

 「災害時に国会が動けるよう備える」という発想は重要であるが、それならば、上記のように極めて限られた場面だけに注目するのではなく、より一般的に、国会開会中であれ、任期途中の閉会中であれ、首都直下地震が起きて国会議事堂が使えない、さらには国会議員が東京にいることができない事態が起きたときに、どのような手順を踏んでどこで国会を開くのかといった、憲法改正のいらない実際上の段取りを議論し、国会議員・両議院の事務局の間で共有する方が、はるかに重要ではないだろうか。