米海軍基地が見渡せるホテル


 結婚の翌年、呉は太子党の人脈を生かして、中国建国当時の軍最高幹部で、外相や副首相も歴任した陳毅元帥の息子の陳小魯とともに、安邦保険を創設。安邦はこの10年ほどで飛躍的に成長した。太子党のコネクションを利用し中国政府の強力な支援を得て、3500万人もの顧客を獲得したからだ。
2012年12月、中国共産党総書記に就任後、広東省深セン市を訪れ、鄧小平氏の像に献花する習近平氏(新華社=共同)
2012年12月、中国共産党総書記に就任後、広東省深セン市を訪れ、鄧小平氏の像に献花する習近平氏(新華社=共同)
 安邦は中国では私営企業ながら、時として中国政府の息がかかった“公営企業”と言われるが、まさに政府の意を受けて、海外でのビジネス展開を急拡大している。19億5千万ドル(約2400億円)でウォルドーフを買収したのもその一環だ。

 米国内では昨年10月、サンディエゴにある高級ホテル「ホテル・デル・コロナド」の買収に成功したかにみえたが、米外国投資委員会によって「待った」をかけられた。ホテルは米海軍基地と隣接し、しかも海軍の特殊部隊「シールズ」の本部が置かれているからだ。「米国の国家安全保障上の脅威になりうる」との判断だが、これはウォルドーフ買収の際の懸念と同じだ。

 その呉とジャレッド・クシュナーが知り合ったのはいつごろか。米紙ニューヨーク・タイムズによると、呉がウォルドーフを買収した翌年の2015年ごろで、同年6月まで4年間、ニューヨーク州金融サービス局長を務めていたベンジャミン・M・ロウスキーの紹介だったとされる。

 ロウスキーは局長を辞めたのち、金融コンサルタントとして活動。顧客の一人が米中堅生保「フィデリティ・アンド・ギャランティ・ライフ」の買収を手がけていた呉だった。呉はいったん同社の買収で合意したと発表したものの、その後、州金融サービス局の命令で、安邦の株主などの詳細な経営情報の開示を求められ、買収は現在、暗礁に乗り上げている状態だ。

 呉はデッドロック状態を打開しようとロウスキーに接触。逆に、ロウスキーから彼の顧客の一人であるクシュナーの存在を知らされた。なぜならば、クシュナーも大きなビジネス案件を抱えており、資金を提供してくれる支援者が必要だったからだ。

 当時のクシュナーはニューヨーク・マンハッタンの5番街に位置する41階建て「5番街666ビル」の再開発計画を構想していた。666ビルはクシュナーが2006年に18億ドルもの巨費を投じて買収。ニューヨークではロックフェラーセンターに隣接する最高級物件。買収額は当時のニューヨーク史上最高値で、以前の持ち主の買収額の3倍だった。

 クシュナーはこの買収劇で、ニューヨークのビジネス界における有望な若手実業家として一躍名前を知られる。そのころ社交界で知り合ったのが、いまの妻のイバンカ・トランプだった。言わずと知れたトランプ大統領の娘だ。