さて、このスーツ姿、驚くことがもう1つある。その胸にバッジはなかったのだ。祖父を称える生誕記念の軍事パレードに、その肖像が描かれたバッジをつけないってどういうこと?…である。

 また、25日の朝鮮人民軍創建85周年を祝う合同攻撃演習で行った、建軍史上最大規模の砲撃訓練を、人民服姿で笑顔を見せて視察する金委員長の胸にも、肖像徽章である金日成バッジが見当たらないのだ。北朝鮮では、公式な場では必ずつけなければいけないはずだが。金委員長だけは、やはり別格ということだろうか?

 実は、これまでにも度々、バッジをつけていない姿が見られている。だが、今回はかつてないほど、その一挙一動に各国が注目している中でのことだ。

 もしかして自分は、祖父も父も越える存在になりつつある。いや、すでに越えたという思いがあるのではないだろうか。自身が祖父や父より偉大な指導者になったため、バッジは必要なくなったということかもしれない。北朝鮮はこれまでにないほど軍事力を持つ強い国に、祖父も父も成し得なかった強い国に、米国を脅かす国になっているという自負が、そうさせたのかも。

 そう思えるぐらい今回の軍事パレードでは、多種多様な兵器や新しいミサイルに、肝いりの精鋭部隊までも公開し、軍事力を見せつけた金委員長。映像では終始、機嫌がよさそうだ。真剣な眼差しでパレードを見ていると思えば、次のカットでは白い歯を見せ笑っている。側近や軍幹部と話している様子は、いかにも満足気だった。

 それに今回の映像には、2015年の朝鮮労働党創建70周年記念の軍事パレードやそれ以前の映像とは違う変化が見られる。金委員長の映像が以前より多くなっているのだ。年々増えてはいたが、今回は行進する部隊ごとに、それを見守る金委員長のカットが入っているのでは、と思えるぐらい多くなっている。

 国内的には金委員長がすべての部隊に関心を持ち、重要だと思っているというアピールに見える。対外的には、これだけ統制が取れた軍隊を掌握している様を見せつけたかったのかもしれない。

 感情的には、こんな推測もできそうだ。金委員長は世襲の3代目。会社に例えるなら、創業者が作って成長させた会社を、その背中を見てきた2代目が守る。バトンタッチした3代目は自分なりの改革を行おうとするが、これまでのやり方、歴史、組織文化に阻まれ周りの反感を買う。そんな環境に身を置くと、祖父や父を尊敬しながらも、どこかで反発、反抗したいという相反する感情が生じやすくなる。

 何かを変えようとしても、周りは嫌がるばかり。そこで3代目は、反りの合わない古参の役員を辞めさせ、言う事をきかない社員を排除して、自分なりの体制を作り上げる。そう、金委員長が粛清の嵐を吹かせ、恐怖政治を行ってきたのはまさにそれだ。そして祖父や父が築いてきた過去に縛られることなく、独自路線を歩み始める。バッジを外したのは、そんな相反する感情を心の奥に抱えていたからかもしれない。

 スーツを着てバッジをはすした金委員長は、いったいどこに向かうのだろうか?

関連記事