一色正春(元海上保安官)
靖国神社を敵視する人たちによる「靖国神社に戦争犯罪人が祀られている」という理屈ですが、実はこれも根拠がありません。特にA級戦犯が合祀されたからうんぬんと言うのは全く理屈になっていません。

そもそも戦争犯罪が国家間で議論されるようになったのは18世紀後半からです。それまでは、そういう概念自体がなく、相次ぐ戦争で疲弊したヨーロッパ諸国の間で何とか戦争を防ごうという動きに伴い、戦争自体を禁止できないのであればせめて一定のルールを課そうと「非戦闘員に対する攻撃や捕虜虐待の禁止」「非人道兵器の使用禁止」などの決まりを定め、それを破ったものを戦争犯罪と呼ぶようになったのです。
逆に言えば、それ以前は、やりたい放題だったということで、戦争犯罪の定義は時代とともに変わってきており、重要なのは問題とされる行為が、その時代に禁止されていたのかどうかということです。その大前提を踏まえず、過去の行いを現在の基準で裁けば、ナポレオンなど祖国で英雄と讃えられている王や将軍のほとんどが「戦争犯罪人」になってしまいます。
これがいかにむちゃくちゃなことか。身近な例で表現するならば、時速60キロ制限の道路に対して、ある日突然「この道を30キロ以上で走った者は懲役刑に科す」という法律をつくり、過去その道を30キロ以上で走った人々を次々と捕まえていけば、車を運転するほとんどの人を刑務所に送ることが可能になってしまいます。
ですから、普通の法治国家では、刑を定めてから罰する「罪刑法定主義」を原則としており、その法を遡(さかのぼ)って適用すれば不利益を被る人間がいる場合、法の遡及(そきゅう)を禁じているのです(ただし、有利になる場合は認められる)。
そこで、彼らが特に問題視している、いわゆる「A級戦犯」が行ったとされる行為が、その時代に禁止されていたのかどうかということを見てみようと思いますが、その前にA級戦犯とは何なのかという話をしておきます。
