福田充(日本大学危機管理学部教授)
現代のテロリズムの特徴は、一般市民を狙った無差別テロであり、ソフトターゲットを標的とした無差別大量殺傷であった。昨今のイスラム国を中心としたイスラム過激派組織が起こしたフランスやベルギーなどでのテロ事件のような、欧米諸国で実行されているグローバル・ジハードの戦略の影響も影を落としている。

しかしながら、北朝鮮の金正男氏がマレーシアのクアラルンプール国際空港で神経剤VXガスとみられる猛毒により暗殺された事件が発生した。これは特定の要人を狙った要人暗殺テロである。本来、大統領や首相など国家の要人であればテロや犯罪から守るための警備が厳重に敷かれているが、金正男氏には立場上、その警備がなかったために比較的容易にテロ行為が成功した。この金正男殺害事件は、最も古いタイプのテロリズムである「要人暗殺テロ」に分類することができる。
「テロリズムは劇場である」と述べたのは、テロリズム研究者のブライアン・ジェンキンスである。テロリズムはテレビや新聞などのメディア報道を通じてドラマティックなストーリーとなり、それを見守るオーディエンスを取り囲んで社会全体を劇場化する作用をもつ。テレビの視聴者も、新聞や雑誌の読者も、テロリズムという劇場のオーディエンスとなってこの物語に参加する。金正男殺害事件は、事件発生当時から1カ月を経過した段階でも、テレビのワイドショー番組や週刊誌、タブロイドなどを連日にぎわせる数字の取れるキラーコンテンツであった。
かつて2004年のイラク日本人人質テロ事件では、人質となった日本人3人をめぐって小泉政権がイラク派遣の自衛隊撤退という要求を受け入れるか、それとも拒否するか、日本人3人の命は助かるのか、日本の世論は同情論と自己責任論に分裂しながらこの事件の行方について固唾をのんで見守った。2015年のイスラム国によるシリア日本人人質テロ事件でも、日本人2人の命と2億ドルという身代金要求のあいだで有効な手を打てない安倍政権を尻目に、インターネットやソーシャルメディアを通じて、2人が殺害される画像や動画が世界を駆け巡るという結末を迎えた。テロリズムを実行するテロ組織やテロリストは、自らのメッセージを世界にプロパガンダするために、テレビや新聞などのマスメディア、インターネットやソーシャルメディアを利用して、世界中のオーディエンスを取り込みながらテロリズムを実行する。
このようにメディアの進化した現代社会において、テロリズムは新しく魅力的なコンテンツとスペクタクルを供給する装置として機能している。
