韓国での在日差別


 こうして在日韓国・朝鮮人にはいくつかの特権が与えられていることは明らかですが、これらの特権は、かつては植民地人が受けていたさまざまな社会的差別の歴史によって当然(あるいは仕方ない)とみなされていました。しかし現在では、法的にも就業面でも結婚面でもほとんど差別らしい差別は見当たらず、また収入面の格差も見られません。指紋押捺もなくなりましたし、帰化しようとすればそれほどの面倒な手続きもいりません。さらに2008年には自民党によって帰化手続きをさらに簡略化するための法案が作られています。

 ちなみに帰化の実績は90年代に急増し、1万人を超える年もありました。1950年以来60年間に、帰化者の累計はほぼ30万人近くに達すると推計されます。80年代末には70万人いた在日の人たちは、現在約50万人に減っているので、この減少には90年代以降の帰化者の累積が大きく貢献しているとみていいでしょう。

 では、いまも韓国・朝鮮籍を維持している人たちがなぜ本国に帰ろうとしないのか。それにはいくつかの理由が考えられます。韓国政府は在日韓国人の本国帰還を非常に嫌っており、密入国者の送還を拒否したこともあります。在日の人たちもそれを知っているのです。在日の人たちを差別しているのは、日本ではなく韓国なのですね。また北朝鮮は、ご存知の通りの状況ですから帰国を望む人はほとんどいないでしょう。日本にいる方が生活も保障されるし就業機会もあり居心地がいいのです。おまけにいまほとんどの在日の人たちはすでに二世、三世、四世であり日本語が母国語ですから、メンタリティーは日本人と変わりません。在日の人たちの多くは、本音では日本国籍がほしいのだと思います。

 また1950年時点で在日の半数近くが密入国者だったという有力な説もあり、戦前から自由選択で来日した人の割合も多く、戦時徴用された朝鮮人はわずか245人だったという政府の公式発表もあります。戦前からの密航、済州島四・三事件での虐殺を逃れての密航、ヴェトナム戦争時の徴兵を逃れての密航が三つの大きな密航といわれていますが、それ以外にも経済的理由での密航者が相当数いると考えられます。ということは、朝鮮の苛酷な生活実態に比べて日本がいかに魅力的に見えたかということの証拠でもあるわけです。

 さてここからが問題ですが、日本でずっと暮らしたいが帰化はしようとしない人たちのなかには、在日としての特権を手放したくないという動機を持つ人がかなりの割合で含まれるという推測が成り立ちます。もちろん、先祖伝来の民族アイデンティティを守りたいという純粋な思想的立場の人もいるでしょうが、それは以上述べてきたことから考えて、現在ではどうみても少数派でしょう。

 誤解を避けるために断わっておきますが、私はけっして、個々の在日の人たちの動機を歪んだもの、醜いものとして非難するためにこの指摘をしているのではありません。ある特権や利権が目の前にあるときにそれを手に入れようとするのは、人間の自然な傾向です。問題は、そういう特権を許す制度や制度の運用の仕方にあるというべきでしょう。そのかぎりでは、橋下市長の「国会議員に言え」という発言は正しいのです。

 もう一つ指摘しておくべきことがあります。差別の実態がほとんど消滅して、しかも特権を手にしているのに、「かつてあった差別」をタテにしてそれを利用しようとする団体は、民団や総連に限らず、正当な反差別団体が不当な利権団体に堕落した姿を示しているのです。一部の同和団体関係者と同じで、要するに実態のなくなった「弱者」「被差別者」の看板を聖なるものとして振りかざし、公共機関から利権をむさぼり取ろうとしているわけです。その傾向をかぎつけているかぎりでは、桜井誠氏をはじめとした在特会の主張は正しいのです。ただし、「朝鮮人は朝鮮半島に帰れ!」などの「ヘイト・スピーチ」は、汚い言葉だからいけないのではなく、むしろその声をかける対象と、メッセージに示された解決の方向性とが不適切だと言えるでしょう。これについてもあとで触れましょう。