また、ホームグロウン型が増加したのは、2001年の米同時多発テロ事件以降、世界各国のテロ対策が強化され、出入国管理が極めて厳しい状況に変わったことが大きい。米同時多発テロ事件は、中東各国から国際テロ組織「アルカーイダ」によってリクルートされた若者たちがアメリカに入国して潜伏することにより実行された。事件後、出入国管理が強化され、外国からテロ組織に関与する人物が入国することが極めて困難になったことにより、もともとその国に生まれ育った国民を過激化させ、その国内でテロ事件を起こさせるという手法に切り替わったというのが、ホームグロウン型が潮流となった原因である。

 一方、ローン・ウルフ型が増加したのは、テロ対策の一環で監視カメラの運用や、電話やメールなどの通信傍受が強化されたことの反動である。通信傍受や監視カメラなどテロ対策における監視の強化によって、テロ組織がメンバー同士で会合をしたり、連絡を取り合ったりすることが極めて困難となった。そこで、テロリズムを実行するためにグループでメールや電話の連絡を取り合う必要のない、単独犯の個人または兄弟など極めて近しい関係者だけで実行されるローン・ウルフ型が増加したのである。
ロンドンで起きたテロ事件で、車が通行人をはねたロンドン橋付近を警戒する警官ら=6月3日(ロイター=共同)
ロンドンで起きたテロ事件で、車が通行人をはねたロンドン橋付近を警戒する警官ら=6月3日(ロイター=共同)
 このように、テロ対策やインテリジェンス活動が強化され、進化すると同時に、テロリズムの形、テロリズムの特徴も変化してきたことがわかる(※1)。テロ対策と監視活動を強化するほど、それをすり抜けるための新しい形のテロリズムが誕生する。さらに先日6月4日にロンドンで発生したテロ事件は、3人の容疑者が車を暴走させて市民を引き倒し、その後市街地のレストランやバーでもナイフを使って無差別に刺殺するという犯行であった。このように近年増加している車やトラックの暴走により一般市民をひき殺すテロ、ナイフなど身近な道具を使ったテロは、未然に防止することが極めて困難である。

 イギリスには2006年に制定されたテロリズム法や2005年のテロリズム防止法など、テロ対策に関する基本法的な法制度が存在する。これらの包括的なテロ対策の仕組みにより、イギリスでは容疑があれば令状なしで48時間拘束することができる。

 同時に、共謀罪の枠組みも整備されており、イギリスは最もテロ対策、特にテロを防止するための法制度が進んでいる国の一つだといえる。さらには、情報局保安部(MI5)、秘密情報部(MI6)などの機関によるインテリジェンス活動も世界でトップレベルの運用がなされている。しかしながら、このようにテロ対策が進んでいるイギリスにおいても、こうしたテロ事件を食い止めることが難しいという現状がある。それは、テロ対策の進化と同時に、それをすり抜けるためのテロリズムの形も変容し、進化しているためである。