マンチェスター爆弾テロ事件の容疑者は、事件前からインテリジェンス機関の要注意人物リストに含まれていたという情報がある。それでもこの事件は未然に防ぐことはできなかった。それはインテリジェンス活動におけるテロリズムの監視の「5W1H」に鍵が潜んでいる(※2)

 インテリジェンス機関はその諜報活動、監視活動により危険人物が誰か(WHO?)を特定することはできる。だが、その危険人物が、いつ(WHEN?)、どこで(WHERE?)、テロリズムを実行するかを特定するのは極めて難しい。それがローン・ウルフ型のテロリズムの防止、監視の難しさであり、この5W1Hを完全に把握するためには、より強大な監視体制を構築せねばならなくなる。テロ対策による「安全・安心」の価値と、監視や諜報活動により損なわれる可能性のある「自由・人権」の価値のバランスこそが民主主義社会においては重要であり、市民の「自由・人権」を守ることができる民主的でリベラルなテロ対策のあり方が求められている。
5月23日、英マンチェスターの市役所前にささげられた花の前でうなだれる女性(ゲッティ=共同)
5月23日、英マンチェスターの市役所前にささげられた花の前でうなだれる女性(ゲッティ=共同)
 マンチェスター爆弾テロ事件において、ISが犯行声明を出した。その声明の中には、このような表現があった。「爆弾は恥知らずな祝宴のためのアリーナで爆発し、約30人の十字軍兵士を殺害、約70人を負傷させた」。グローバル・ジハード戦略によって世界各国で発生するホームグロウン型テロに対して、ISは事後的に犯行声明を発表して追認する姿勢を常にとってきた。

 イスラム原理主義者、イスラム過激派の思想には、こうした欧米のポップシンガーのライブが「恥知らずな祝宴」であると映ること、こうした欧米の大衆音楽、ハリウッド映画、ディズニーランドといった欧米型エンターテインメントが文化帝国主義的な「十字軍兵士」と映ることに、世俗社会に生きる私たちは想像力を巡らせなくてはならない。文化的多元主義を許容できる社会を目指して、孤立する個人やコミュニティーの過激化を根本的に防ぐ長期的なアプローチの構築が必要であることを、このテロ事件は示している。

【参考文献】
(※1)福田充『メディアとテロリズム』(2009、新潮新書)
(※2)福田充『テロとインテリジェンス~覇権国家アメリカのジレンマ』(2010、慶應義塾大学出版会)