しかし、トランプは大きな勘違いをしている。FBIは、長官ひとりのクビを切られたくらいで諦める組織ではない。むしろ本気でトランプを追い詰めようとするのではないか。

 司法省は早くも、“ロシアゲート”を本格的に捜査するため、コミーの前任だったロバート・ムラーを「特別検察官」に任命した。フリンを辞めさせ、大統領上級顧問のスティーブン・バノンを国家安全保障会議の幹部会議から外すなど、側近を次々に飛ばしているトランプ。捜査が迫れば、今度は自ら職を放り投げて逃げ出すのが関の山だろう。

 5月上旬には、トランプ本人がロシア外相のセルゲイ・ラブロフと非公開会談している様子を写した写真が公になった。その写真は表に出ないはずだった。ホワイトハウスの大統領執務室で、トランプはラブロフと笑顔で握手していた。アメリカはロシアに制裁を科しているはずなのに、ロシア側をにこやかに迎えている写真が出ることはあってはならないことだった。

 大統領も側近たちも、ロシアとベッタリなのである。ロシア疑惑だけではない。最近のトランプは暴走を加速させている。政権発足から100日の節目を迎えた4月末には、ペンシルベニア州で集会を開いた。そこでトランプは「私の100日を語る前に、メディアの100日を採点してみよう」と語り出し、大統領批判を続ける記者たちを「非常に不誠実だ」と切り捨てた。

 北朝鮮問題への対応も支離滅裂だった。「核開発を許さない」と言って空母カール・ビンソンを派遣したのに、1か月も経たないうちに「適切な環境下なら金正恩と会う」と言い出した。新聞は訳知り顔で「硬軟織り交ぜた対応で金正恩を揺さぶっている」と書いていたが、単にブレているだけだ。あの大統領には何の戦略もなく、ただ思いつきで喋っているだけなのだ。

 日本人は、いざとなったらアメリカが北朝鮮をぶっ潰して守ってくれると思い込んでいるようだが、トランプは日本を守る気などまったくない。そもそも、東アジアの安全保障にコミットするつもりもないだろう。だから、「金正恩と会う」とか、「金正恩をアメリカに招待する」などと言えるのだ。

 本連載の前号でも指摘したが、トランプの外交・安全保障政策には、まったく一貫性がない。娘のイヴァンカが「アサドは化学兵器で子供を殺している。アサドを攻撃すべきだ」と言えば、シリアを空爆する。軍が「北朝鮮に空母を派遣すべき」と言えば、カール・ビンソンを出す。

 哲学がなく、歴史も知らないから、軍や側近の言うがままに操られているのだ。

関連記事