栗原氏らの本を読むと、日本型リベラルや左派に未来があるのかというと絶望的であるとしかいえない。これは世界におけるリベラル的な政治の復興というべきものとは真逆の流れだ。例えば、英国の総選挙で躍進した労働党のジェレミー・コービン党首の政策は、「人民のための量的緩和」という大規模な金融緩和政策と積極財政政策の組み合わせ、そして大学授業料の無料化などの再分配政策であった。
6月9日、ロンドンの選挙区で親指を立てるコービン労働党党首(AP=共同)
6月9日、ロンドンの選挙区で親指を立てるコービン労働党党首(AP=共同)
 このコービン労働党の政策に、現在の安倍政権に似たものを見いだすことは容易だろう。だが、日本型リベラルや左派は、このコービン流の経済政策を否定することで成立している。むしろ日本型リベラルや左派の経済政策観は、欧米のネオリベラリズムと似ている。反経済成長は、一種のマクロ経済政策的な介入を放棄し、事実上の緊縮主義と同じだからだ。

 日本型リベラルと左派の経済オンチゆえの閉塞(へいそく)感は実際に本人たちは自覚していないだろう。なぜなら「反安倍」という熱狂の中で、日本型リベラルと左派が今日もまた元気に活動中だからだ。これでは多くの国民からまったく相手にされることはないだろう。

栗原 内田樹も、もう十分稼いで老後の心配もないから「経済成長は要らない」って言えるんだ、「あんたは要らないかもしれないけど、若い連中には要るんだよ」とよく批判されています。内田センセイは、ご自分が昼食に食べた鰻重の写真をツイートしただけでなぜ炎上するのか、よくお考えになったほうがいいんじゃないですかね(略)。

 もちろん内田氏だけではない。リベラルと左派全体にこのような若い世代、経済的に困窮している人たちへの共感の欠落がみられることは、おそらく本人たち以外に自明だ。

北田 (略)ご本人が裕福になることは構わないのだけれども、それが生活保守とか彼らが言う新自由主義に当てはまちゃっているということは、少し考えてほしいなとは思いますよね。じゃあ、オルタナティブを出せと言われたら、リフレ派だっていくらでも出している。そういうのを反安倍ということで思考停止して蓋をしてしまうのは、私はよくないと思います。

 今回は経済系の話題に絞ったために、後藤和智氏の若者論壇などをめぐる辛辣(しんらつ)な発言を拾えなかったのは残念だ。北田暁大・栗原裕一郎・後藤和智の三者による『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』は、日本のリベラルと左派にまだ一縷(いちる)の望みを持っている人にも、そしてもちろん絶望しきっている人にも、今の日本の論壇を知る上で欠かせない対談になっている。