この「一帯一路」構想が、実は米国にとってそれほど大きなストレスではないことは、この地域において米国が主導して進めてきた経済構想と「一帯一路」が一体化する方向で話し合いが進んできたことからも推測できる。

 それがヒラリー・クリントン元国務長官の下で進められてきた「新シルクロード戦略」である。この「新シルクロード戦略」は、そもそもイランとロシアを分断し牽制(けんせい)する意味から生まれたもので、これに対するロシアの構想が「ユーラシア経済連合」である。

 興味深いのは、この「ユーラシア経済連合」も「一帯一路」との一体化を進めていることだ。要するに国際政治の視点からみれば、米露の対立の場であったシルクロードが、比較的中間色の強い中国の「一帯一路」に吸収されるという構図が見て取れるということだ。

 一帯一路は、従来モデルの経済発展に限界を感じた中国が、外にその活路を見いだしたことにあるが、考えてみれば次の「成長エンジン」として期待される国が集中している地域でもある。

 中国がそこに旗を立てれば、行き場を失っているマネーが流れ込むことは予測できる。そして、一旦そうした流れができれば、この一帯の経済発展は中国だけで手当てできる規模ではないことは明らかだろう。

 中国がこのところの見せる対外宥和(ゆうわ)に「ウィンウィン(win-win)」が強調されているのは、こうした背景があるからだ。

 こうして政治的な壁を取り払いながら、今後は実を取る作業へと向かうことになるのだが、その先頭を走るのは貨物列車と各地のインフラの整備である。

 2011年に中国は貨物鉄道の建設を完成させた。現在、浙江省の義烏から11の国29の都市を通ってスペインのマドリードまで、約18日で結んでいる。この貨物鉄道の開通で、いま中国-欧州間には百億ドルに相当する貨物が行き来するまでになっている。

 具体的には、中国から工業製品が運ばれ、帰りにマドリードからオリーブオイルとワインを積んで戻る貨物列車だ。小ロットの運搬が可能な貨物列車の運行により、従来は中国との貿易には無縁であった各国の中小業者が貿易に参入するという効果を生んでいる。それにつれ、互いの利益のために税金や通関制度などでの共通化が劇的に進んでいる。

 現状はそうした効果が、本線である義烏とマドリード間だけでなく、北はバルト三国のラトビアの首都リガからロンドン、イタリアのミラノ、西はイランのテヘラン、アフガニスタンのマザーリシャリフなどにも広がっていく可能性が指摘されている。
カザフスタン・ホルゴスの〝陸の港〟。右は中国用の線路、左はカザフスタン用の線路=6月12日(共同)
カザフスタン・ホルゴスの〝陸の港〟。右は中国用の線路、左はカザフスタン用の線路=6月12日(共同)
 まだ始まったばかりの一帯一路を評価することは難しい。ただ、これを「失敗する」と決めつけてしまうのはあまりに早計だ。この構想の背後には、多くの利害共有者がいるという事実も見落としてはならないからである。