スウェーデンやインドがデジタル通貨の発行を急ぐ背景にはさまざまな戦略が存在するはずだが、デジタル通貨を利用した取引が生成するビッグデータは、さまざまな可能性を秘めていることを考えると納得がいく。

 例えば、経済取引の裏側で生成されるビッグデータを政府が1カ所のクラウド(インターネット上のサーバー)に収集することができれば、マネーの動きが詳細に把握でき、成長産業の「芽」を分析・予測できよう。また、家計消費や企業投資の動きも把握でき、いま日本で問題になっているGDP統計の問題解決にも利用できることが期待できる。

 もしデータ・プラットホームを構築し、個人情報が特定不可能な形式に加工した上で、誰でも利用できる形で公開すれば、さまざまなビジネスに利用できよう。

 ところで、中央銀行が発行する現代の紙幣は、偽造防止技術(ホログラム)や特殊な紙・印章を含めて最高水準のテクノロジーを利用したものだが、紙であるために「誰が何を買ったか」「誰が紙幣を保有しているか」といった情報は、紙幣を発行した者から切り離されているという視点も重要である。すなわち、現代の紙幣は、民主的・分権的でプライバシー保護に役立っており、消費者は安心して買い物ができる。
 中央銀行が仮想通貨を発行するとき、最も注意する必要があるのはこの視点である。つまり、経済取引の裏側で生成されるビッグデータを政府が1カ所のクラウドに収集する場合、仮想通貨を受け取った側のデータは蓄積するが、家計・企業といった簡単な属性区分を除き、仮想通貨を渡した側のデータは基本的に蓄積してはならない。

 なお、サービス産業の生産性を高める観点から、北欧諸国では「キャッシュレス経済」が進展しつつあるが、中央銀行による仮想通貨の発行はその動きを加速するはずだ。

 しかも、中国では政府主導でビッグデータの取引市場の整備が始まっている(例:貴州省貴陽に設立されたビッグデータ取引所)。データの生成量は人口規模や経済規模に依存するため、中国やインドなど人口で日本を上回る国々の情報をどこまで日本の市場で活用できるかも、これから考えていかなければならない。ICT革命が急速に進んだのと同様に、データ産業革命も急速に進むことが予想され、いまこそ日本の戦略が問われている。

 いずれにせよ、いま世界では「データ=アセット(資産)」になる時代が近づいている。ICT革命では「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの米大手4社)に日本企業は敗北したが、データ産業革命はこれからが本番だ。成長戦略の一環として、日本版デジタル通貨である「J-coin」(仮称)の発行を含め、日銀・財務省を中心に日本もデータ産業革命の推進を本気で検討してはどうか。