北朝鮮核より怖い隕石衝突、直径10メートルでも破壊力は原爆1千倍

『木下誠也』

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木下誠也(日本大学危機管理学部教授)

 5月15日から19日まで、国際宇宙航行アカデミー(IAA)主催の国際会議「プラネタリー・ディフェンス・カンファレンス」(PDC)が東京・日本科学未来館で開催された。この会合は、地球に衝突する恐れのある小惑星の発見や回避策などを話し合うもので、欧米以外で開催するのは初めてである。

 今回の会議では、大きさ100-250メートル程度の小惑星が10年後に1%の確率で地球に衝突すると想定し、危機対応策や衝突回避方法などが議論された。わが国で隕石(いんせき)の落下(小惑星の地球衝突)が話題にされることはあまりないが、PDCが東京で開催されたことを機会に、防災の観点からこのような危機にどのように対処すべきか考えてみたい。

 わが国の社会資本の整備や管理にあたって、隕石(いんせき)の落下を想定することはほとんどない。しかし、近年は隕石の問題に限らず、地震・火山の活動が活発化していること、異常気象が発生しやすくなっていることから、あらゆる危機を想定して防災に取り組まなければならないという機運が高まっている。

阪神・淡路大震災の発生で大きく傾いたビル。
その後倒壊した=1995年1月21日
 そもそも土木事業などの社会資本整備は、欧米先進国に追いつこうとキャッチアップの時代が長く続いた。設計上想定する外力をあまりに大きく設定すると高コストとなり整備が進まない。このため、設計の対象とする地震や雨・風などの外力は、近年の観測記録の最大値にとどめるのが通常であった。しかし、2011年の東日本大震災を経験してからは、発生し得ると考えられる最大の現象も想定して人命などの深刻な被害を軽減しようという考え方が取り入れられはじめている。地震の揺れ、津波、そして洪水に関する設計上の考え方を整理しよう。

 構造物の設計における地震の揺れの取り扱いについては、1923年の関東大震災や、95年の阪神・淡路大震災など近年の数々の震災経験を経て、想定する外力が順次見直され、現在は、震度7の揺れに対して人命などに致命的な被害を受けないようにするという考えに至っている。

 津波に対する堤防などの設計にあたっては、100年ほどの記録のある範囲での最大程度の津波高が想定されていたが、2011年の東日本大震災以降見直され、現在は100年に1回程度の発生率の津波に対して防御するだけでなく、1000年に1回程度の最大級の津波に対しても人命を守り被害を最小限にするという二段構えになった。

 洪水の想定については、大河川の堤防やダムなどの整備の将来目標としては100-200年に1回程度の発生確率の洪水を対象としている。しかし、河川整備には長年月を要するため、向こう20-30年間の整備目標として、戦後実際に経験した洪水の規模を対象とするのが通常である。このように、洪水防御の施設整備では、津波対策のように発生し得る最大級の外力を想定するには至っていない。ただし、この5月に水防法が改正され、住民に提供されるハザードマップに、発生し得ると考えられる最大級の洪水を想定した浸水想定区域図を示そうということになった。

 地震の揺れ、津波、洪水などの自然外力については、このようにあらゆる危機を想定しようという考えが取り入れられはじめている。それでは、隕石の落下は想定しているだろうか。いや、いまだに想定されることはほとんどない。社会資本の整備・管理にあたって、隕石の落下をどのように取り扱うべきか考えてみたい。

 約6500年前に恐竜絶滅の原因になったとされる隕石落下のような事態を想定すべきであろうか。隕石の直径は10-15キロ程度であった。米航空宇宙局(NASA)によると、直径10キロ超の小惑星は1億年に1回程度の頻度で地球に衝突する。そして、その10分の1の直径1キロ超の小惑星になると100万年に1回の頻度とされている。この大きさの小惑星でも地球に衝突すれば文明を終わらせかねない。だが、直径1キロ以上の小惑星の95%以上は、既に調査が終えられており、それらの軌道から考えて地球に衝突する可能性は極めて低いとされている。

 直径1キロ以上の小惑星は、地球に衝突する確率が極めて小さいが、衝突が起きれば文明の存続も危うくなるほどの影響がある。引き続きこの規模の小惑星の調査に注力する必要があるが、わが国の社会資本整備で対応するのは困難と思われ、国内の防災対策を考えるうえで、とりあえず想定の外におくのもやむないであろう。

 それでは、直径1キロより小さい小惑星となるとどうであろうか。小さいサイズになるほど数多く存在するが、NASAなどが発見しているのはごく一部である。直径300メートルから1キロの大きさのものは40%、直径100-300メートルのものは5%以下、直径30-100メートルのものは1%以下しか発見されていない。

 一方、大きさが小さくなるにつれ地球に衝突する頻度は高くなり、例えば直径300-600メートルのものは2万5000年に1回、直径30~140メートルのものは250-500年に1回とされている。ただし、直径100メートル以下の隕石であっても落下の場所によっては、都市が破壊されるなどの甚大な被害を及ぼし得る。

 実際、1908年6月にシベリアのツングースカ上空で発生した直径数10メートルともいわれる隕石による大爆発により、2000平方キロにわたって森林がなぎ倒された。シベリアの奥地であったため人的被害はほとんどなかったが、もし落下が3時間ずれていたらモスクワは完全に壊滅状態になっていただろうといわれている。そのエネルギーは、広島に投下された原子爆弾の1000倍以上と推測されるすさまじいものであった。

 また、2013年2月には、ロシア中部のチェリャビンスク州に直径17メートルほどの隕石が落下した。大気圏突入時の爆発の衝撃で東西100キロあまりにも及んで建物のガラスが割れるなどして、住民およそ1500人が負傷した。
ロシア・チェリャビンスク上空の隕石のビデオ映像=2013年2月(AP=共同)
 このような直径100メートル以下の小惑星でも地球に衝突すると多大な被害を及ぼすが、見つけることが難しく、ほとんどがまだ発見されていない。そのような隕石落下にどのように対処すればよいのか。

 まず、衝突の可能性のある小惑星を早期に発見できるように監視態勢を強化する必要がある。NASAは2020年までに直径140メートル超の小惑星の90%を発見することを目標としているが、これが確実に達成されることを期待したい。それより小さい小惑星は見つけることが難しく、その多くが発見されていない。今般のPDCで議論されたように、各国が連携して精度の高い観測網を構築することが重要である。

 それに加えて、地球に衝突しそうな小惑星が見つかった場合にその軌道を変えるための技術をさらに開発する必要がある。日本では、小惑星に人工衛星を衝突させてその軌道を変えるための技術開発に必要なデータを小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」で集めている。小惑星の衝突を防止するこのような宇宙技術の開発は、地球の安全と平和を維持するためのものであり、わが国はこれまで以上に積極的に取り組むべきであろう。

 また、社会資本の整備・管理において、隕石落下が重大な影響を及ぼし得ると思われるケースにおいてはこれを外的要因として想定し、隕石落下時に人命や社会・経済に壊滅的な被害を及ぼさないよう、あるいは被害を少しでも軽減できるよう方策を検討する必要がある。特に、原子力発電所などの発電施設や水源施設は、被害を受けると深刻な事態になる場合がある。施設整備のハード面と警戒・避難といったソフト面の両面で対策を検討する必要がある。さらに、国民生活の生命線といえる基幹道路、電気・ガス・水道、下水道などのライフラインについては、リダンダンシー(冗長性)の観点から被災した場合の代替機能確保についてあらかじめ検討しておくことも重要だ。

 ここで注意したいのは、これまでは、最悪な事態を想定した議論をすると周辺住民から危険な施設とみなされ、反対運動が高まるため、議論を避けようとする傾向があったのではないだろうか。「絶対」の安全はないということを前提に、最悪の事態を想定することについて住民も冷静に議論を受け止める自覚を持ち、事業者側・施設管理者側は真摯(しんし)にあらゆる事態を想定して減災対策を論じるべきである。

 最近は、一部の地方自治体で北朝鮮からのミサイル着弾に備えた住民避難訓練が行われるようになった。着弾する前にミサイルを迎撃するハード面の対策も進める必要があるが、警戒・避難といったソフト面の対策を強化することも重要だ。
弾道ミサイル飛来を想定した避難訓練で、屋内で身をかがめる参加者=8月26日、津市
 隕石落下については、地震・水害・土砂災害などに比べて頻度が小さく、またミサイル着弾に比べても現実離れしているように思われがちだが、必ず地球に衝突してくるものである。巨大隕石の落下であれば手の打ちようもない事態も考えられるが、対応策を講じておくことで、被害を最小化できる可能性はある。国家が壊滅するような事態を阻止することができるかもしれない。日本で初めてPDCが開催されたのを機に、隕石落下に対する備えを積極的に検討する機運が高まることを願う。

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