耕作放棄地や空き家といった「管理の放置」の問題は、農地の荒廃や老朽化に伴う危険家屋化など、目に見える形で地域で表面化する。それに対し、相続未登記という「権利の放置」は、登記簿情報と実際の所有状況を照合するまでは、人々の目に見えない。

 自治体担当者が公共用地の取得の際などに所有者不明化の実態に直面しても、個別事案への対応に追われ、政策課題として広く共有するまでにはなかなか至らないのが実情だ。用地取得の難しいことは、自治体担当者の多くが経験的に認識してはいるものの、そうした担当者も基本的には数年で異動するため、政策課題として体系だった議論を継続的に提起する人材も輩出されにくい。

 この問題は個人の財産権に関わることから行政も慎重にならざるを得ず、積極的に取り組む政治家も少ない。

 情報基盤が整っていないために精度の高い基礎情報も少なく、制度見直しの根拠となる不利益の定量化や分析も容易ではない。所有者不明化問題の根本にある制度的要因や経済的損失、さらに対策を講じないことによる負の効果などに関して、全国レベルでの詳細な検証はほとんど行われてきていないといえよう。

 さらに、国民の側から見ると、この問題は解決に要するコストが大きい一方で、問題解消によって得られる便益を短期的に実感しづらいという難しさがある。問題が目にみえづらく突発的な事件が起きることも少ないため、マスコミの記事にもなりづらい。

 こうした意味で、土地の所有者不明化問題は、さまざまな主体の間の隙間に落ちた「盲点」のような課題だといえる。農地集約化、耕作放棄地対策、林業再生、道路などの公共事業、空き家対策、災害復旧事業など、多くの場面で同様の問題が発生していながら、その根底にある土地制度の課題について踏み込んだ議論が十分に行われることのないまま、問題が慢性的に広がってきていたのだ。
(iStock)
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 所有者不明化問題の1つひとつの事象は小さいかもしれない。しかし、この問題が各地で慢性的に発生し堆積していくことで、再開発や災害復旧、耕作放棄地の解消など、地域社会が新たな取り組みに踏み出そうとしたときに大きな足かせとなる。地域の活力をそぐ問題であり、全国で同じようなことが繰り返されていくことで、長期的には国力を損なうおそれがあるといっても過言ではない。

 それでは、今後、どのような対策が必要だろうか。地価の下落傾向が続き、「土地は資産」との前提が多くの地域で成り立ちづらくなるなか、土地制度が大きな転換期にあることは明らかだ。