さて、次にいまの日本経済における金融政策のあり方を簡単にみておく。その上で今回の片岡氏の「反対」の理由について簡単にコメントしておきたい。

 経済を安定化させ、雇用や生活の水準を改善していく役目を、各国の中央銀行は担っている。日本の中央銀行は日本銀行であり、その政策を決定するのは日銀正副総裁3人と審議委員6人からなる政策決定会合である。いまの日銀は経済の安定化を、物価安定目標(インフレ目標とも呼称される)を対前年比2%の水準を達成することで果たそうと考えている。なぜならば、日本経済の長期停滞は物価下落(デフレ)の継続にその真因があると、日銀は考えているからだ。

 ただし、物価安定目標が導入されてから4年以上経過したが、いまだに物価水準は0%近くの低位置のままだ。その原因は、主に2014年4月導入の消費増税による消費低迷が現在も持続していることである。そして15年から本格化してきた新興国経済の不安定化、ギリシャ危機、英国の欧州連合(EU)離脱ショック、なによりも米国の金融政策が不透明化したことも大きい。

 今日、後者の世界経済の撹乱(かくらん)は一息ついている状態だ。前者をみれば、17年6月の消費は名目・実質ともにプラス域に転じている。その意味では、ここ数年の日本経済の不安定感は次第に薄れているようでもある。だが、2%の物価安定目標への道のりは依然として厳しいだろう。もっとも雇用状況を含めて大半の経済指標は、日本が長期停滞に入る前の水準か、あるいは統計史上でもまれなほど改善しているものもあり、実体経済はかなり堅調ではある。これらは明らかに、不十分とはいえ長期停滞を脱しつつある証拠であり、また日本の金融政策の成果であることは疑いない。なぜなら日本経済全体を改善する政策効果のひとつである財政政策のスタンスは、この連載でも指摘しているように13年度は拡張基調だったが、それ以降は事実上の緊縮スタンスである。
平成30年春に卒業予定の大学生らを対象にした企業の採用選考が解禁となり、三井住友海上火災保険の採用面接で、順番を待つ学生たち=6月1日、東京都千代田区
平成30年春に卒業予定の大学生らを対象にした企業の採用選考が解禁となり、三井住友海上火災保険の採用面接で、順番を待つ学生たち=6月1日、東京都千代田区
 雇用状況を、世界経済の好転や生産年齢人口の減少による人手不足に求める不可思議な議論がある。だが、前者に関してはいま述べたように、ここ数年の世界経済は撹乱要因が大半であった。08年のリーマン・ショックにより落ち込んだ前後6年で比較すると、前では7・4%、後では5・3%である。先の「いまの雇用状況などがいいのは世界経済の好転のせい」という仮説に従うと、リーマン・ショック前は現状よりも日本経済はいいはずだ。だが、そんなことにはなっていない。つまりニセの議論なのである。

 後者の生産年齢人口が減少したためにいまの雇用状況がいい、という議論もまたトンデモ経済論である。例えば、生産年齢人口は21世紀初頭から今日まで約1000万人減少している。今世紀に限定しても17年間、この減少は継続している。もし先の「生産年齢人口減少仮説」が正しければ、この減少トレンドと同時に失業率の低下や有効求人倍率の改善がみられただろう。だが実際には、小泉政権後期から08年までのリーマン・ショック以前、そして第2次安倍政権以降を抜かせば、失業率は高止まりし、有効求人倍率は極めて低かった。そうなると金融政策の緩和継続こそが、いまの雇用状況の改善に効果があったということはいえるであろう。