「信用できないのは日本政府も韓国政府も同じだ」。徴用工問題を巡る複雑な状況には、元軍人・軍属や徴用工などによって構成された「遺族会」の長い苦悩の歴史がある。

 そしてこのような中、8月17日の記者会見で、徴用工問題について「私的請求権は残っている」としてこれを取り上げる姿勢を見せた文在寅は、わずか約1週間後の25日、安倍総理との電話首脳会談にて、今度は一転して徴用工問題は日韓基本条約にて解決済みという判断を確認した。揺れ動く韓国政府の背後に見え隠れするのは、この問題をめぐる一貫しない姿勢であり、遺族たちはそこに韓国政府の不誠実な姿勢を読み取ることになる。

 そもそも彼らが韓国政府を本当に信頼し、協調関係が確立しているなら、彼らは黙ってこれを見守ればいいだけのはずである。にもかかわらず、彼らが自ら立ち上がり、時にイデオロギー的に距離がある左派労働組合とさえ手を組もうとするのは、彼らがこの問題に「韓国国内で」十分な関心が集まっていないと考えているからである。

 日本大使館前に慰安婦像を立てる動きが本格化したのは、挺対協が右派李明博政権と対立を深めるさなかのことであり、そこには日本政府と並んで李明博政府への非難の意が込められていた。

日本の植民地支配からの解放を記念する式典で元徴用工の男性と握手する韓国の文在寅大統領(右)=8月15日、ソウル(聯合=共同)
日本の植民地支配からの解放を記念する式典で
元徴用工の男性と握手する韓国の文在寅大統領(右)
=2017年8月15日、ソウル(聯合=共同)
 そして今、各地に徴用工像が立とうとしている。そこには労働組合や遺族らの複雑な思惑が存在し、その中で左派の文在寅政権は明確な姿勢を決められずにいる。韓国では高齢者に保守層が多いため、高齢者が多数を占める遺族らの中にも、左派政権に強い拒否感を持つ人々も数多く存在する。

 こうしてみるなら、徴用工像が日本の過去清算に対する異議表明であると同時に、元軍人・軍属や徴用工など、「慰安婦以外の問題」に真摯(しんし)に取り組まない韓国政府や運動団体への不満表明であることがわかる。韓国政府は、各種運動団体などを統制して日本へ挑戦状をたたきつけるという状態にはなく、むしろこの反発を抑え込み、落としどころをどこに見出すかに苦労している。

 問題は彼らが政府を中心にまとまっていることではなく、むしろ、韓国政府がこの問題における当事者能力を喪失していることにある。左右のさまざまな団体の活動や、裁判所の判決に一喜一憂せざるをえない「弱い韓国政府」の存在こそが問題の核心なのかもしれない。