岡本光樹(都民ファーストの会副幹事長)
9月20日から10月5日を会期とする東京都議会定例会に、都民ファーストの会、公明党および民進党は、「東京都子どもを受動喫煙から守る条例(案)」を提出し、3日の厚生委員会で可決されました。5日の本会議で可決、成立する見通しです。

この条例案は、
第3条 都民は、受動喫煙による健康への悪影響に関する理解を深めるとともに、いかなる場所においても、子どもに受動喫煙をさせることのないよう努めなければならない。
第6条 保護者は、家庭等において、子どもの受動喫煙防止に努めなければならない。
2 喫煙をしようとする者は、家庭等において、子どもと同室の空間で喫煙をしないよう努めなければならない。
と規定しています。これらの条項について、「法は家庭に入らず」という点で反対する意見が見受けられます。
この論点に関して、この条例案の草案から作成に関わった立場として、また、弁護士・法律家の立場として、解説と意見を述べます。
法律家として、「法は家庭に入らず」という言葉があることは承知しています。これは古代ローマの格言で、現代の刑法においても親族間の窃盗・詐欺・横領などの財産犯については、刑を免除するまたは親告罪とする規定が見られます(親族相盗例・刑法244条)。
しかしながら、家庭内における虐待や暴力については、近年、児童虐待の防止などに関する法律「児童虐待防止法」や、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護などに関する法律「DV防止法」が制定され、かつての法格言を超えて積極的に法が関与すべきとされています(参議院法制局 法制執務コラム「立法と調査」2006年5月)。
受動喫煙は、児童虐待や暴行罪・傷害罪(生命・身体犯の類型)の問題として議論されるべきであると考えています(『捜査研究』2016年3月号「タバコ受動喫煙と刑法 事例別Q&A」62頁)。子供の生命および健康を受動喫煙の悪影響から保護し、子供が安心して暮らせる環境を整備することは、社会全体の責務であると考えます(条例案の前文及び第1条)。
なお、過去の報道によれば、2015年12月頃立て続けに3件、親が幼児に喫煙させた件が暴行罪などの刑事事件として、逮捕や略式起訴されています(前掲『捜査研究』61頁)。家庭内の事案も含まれていました。今回の条例案の対象とは異なりますが、子供への暴行罪の刑事実務において、「法は家庭に入らず」は必ずしも通用しません。