もうひとつの論点となるのが、米国における銃規制の問題である。米国は州によって多少の制度面の差があるものの、銃を持つ権利、自由が認められている銃社会である。イデオロギー的には、銃を持つ自由や権利を主張することはリバタリアン(自由主義者)の特徴であり、銃を持つ権利を規制する銃規制の立場はコミュニタリアン(共同体主義者)の特徴である。こうしたイデオロギー上の問題だけでなく、米国内で繰り返される銃犯罪に対する被害を目にして心情的に銃規制に賛成する国民も多い。

 オバマ前大統領は繰り返される悲劇に対して、銃規制を政策化するための動きを見せたが、全米ライフル協会などの反対もあり実現しなかった。今回も、細かい銃の種類や性能について、その購入や保持に関する規制の議論は発生するものの、本格的な銃規制に向けた制度改革には結びつかない可能性が高い。米国には、銃を持つ権利・自由を保持しながら、銃犯罪が発生しないような社会をつくる犯罪対策、危機管理の構築が求められている。銃保有者の登録に関するデータベース管理や行動監視の強化など、具体的な施策の強化が必要である。

 今回の銃乱射事件は「テロリズム」ではなかったが、この大量殺傷をもたらした手法は、十分にテロリズムに応用可能なものである。実際に現在のテロ対策の警備では、スポーツ競技の会場や、コンサート会場では手荷物検査が強化されているが、ホテルなどの宿泊施設では手荷物検査は実施されていない。これは米国でも、日本でも状況は同じである。野外コンサート会場で手荷物検査が実施されていても、今回の事件のように隣接するホテルの32階から銃を乱射されれば、大量の死傷者が発生することは警備の専門家から見れば自明の理であったが、これまでその対策は実施されなかった。

 日本においても、例えば東京の迎賓館に外国の要人が来賓として滞在しているときには、その迎賓館をライフル等で射撃が可能な近辺の高層ビルには警備のために警察による規制が入る。こうした迎賓館のようなハードターゲットだけではなく、今後は、こうしたコンサート会場やスポーツ施設など屋根のない野外会場などソフトターゲットにも、近辺のビルなどに警備が必要となる可能性がある。
米西部ラスベガスの銃乱射事件で、スティーブン・パドック容疑者が割ったとみられるホテル「マンダレイベイ」の窓=10月3日(共同)
米西部ラスベガスの銃乱射事件で、スティーブン・パドック容疑者が割ったとみられるホテル「マンダレイベイ」の窓=10月3日(共同)
 2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、日本のテロ対策に新しい課題が突き付けられたといえるだろう。