ただし、注意すべき点がある。消費増税「だけ」に注目してしまうと、経済政策全体のあり方を見失ってしまうことがあるからだ。最近、ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のリチャード・セイラー教授は、人間の経済的判断が非合理的なものだとして「行動経済学」を主張している。選挙になると、各党ともキャッチフレーズを利用して特定の論点だけに人々の注目を集めようとする。これを「アンカリング効果」ともいう。例えば、安倍政権の「消費増税」というレッテルだけに注目してしまうと、まるで緊縮主義的に思えてしまう。対して希望の党や立憲民主党の「消費税凍結」の方は総需要不足を解消するような経済拡大をもたらすように見えてしまう。

 だが、このような見方は「アンカリング効果」の結果にしかすぎない。「アンカリング効果」が発揮されると、われわれの判断は非合理的なものになりやすくなる。確かに安倍政権の「消費増税」が実施されれば、デフレ経済に再び転落する可能性は大きい。だが、そもそも実施が2年後であり、首相の発言では、その間「リーマン・ショック級」の事態があれば見直すともいっている。この発言は前回の消費増税先送りのときにも見られたものだ。また日本銀行による金融緩和の継続などデフレ脱却を主眼としている。つまり経済政策全体でみれば、総需要不足解消・デフレ脱却に主眼をおき、また目標未達ではあるが、経済の良好なパフォーマンスを築いてきた実績がある。経済を拡大し、税収増の中で財源を確保していくスタンスでもあるのだ。

 対して希望の党は消費増税凍結をするものの、経済政策全体では「緊縮主義」的だ。消費増税凍結の代替財源として内部留保課税などを挙げている。ただ、内部留保に課税すると企業の投資に悪影響がもたらされる。総需要の主要な構成は消費と投資であり、内部留保課税はその意味で総需要不足の解消にはマイナスに作用する。また金融政策については、財政政策とともに「過度に依存しない」としており、金融政策の「出口戦略」を強調している。

 デフレ脱却という目標達成の強い意思を見せないままに、金融引き締めを意味する「出口戦略」をいまから強調することは得策ではない。まずは国民の懐具合を改善するには、デフレ脱却が優先であるべきだ。またインフラ整備などの長期的な公共事業の見直しなども含めて、その姿勢は小泉政権時の構造改革を想起させる。構造改革は、経済の潜在的な成長率を高める政策ではあるが、それが正しく機能するにはまずは総需要不足を解消することが重要である。その意味で「消費増税凍結」といいながらも希望の党の経済政策は緊縮主義そのもので形成されているといっていい。