藤井克徳(日本障害者協議会代表)
2016年7月26日未明に津久井やまゆり園で起きた事件は、障害のある人たちに深刻な影響を及ぼしており、いまだに怖いと言う人が多いですね。特に施設の元職員だった人物が容疑者だったことに衝撃を受けている人が多いようです。
もうひとつの衝撃は、やはりあの容疑者の衆院議長公邸に届けられた手紙の内容です。ナイフはいまだに自分たちに向けられている感じがするという声も少なくないようです。
3つ目は、今回の事件を通じて精神障害者への偏見が増すのではないかという恐れですね。障害当事者から多く出ている声です。

今回、障害者問題がある意味で社会化したわけですが、普通の目線、感覚で見ることが肝心だと思うんです。そうすれば入所施設の異常性が、そして地域移行を加速できないでいる障害者政策、障害者行政の問題点や弱点がみえてきます。
もうひとつ、犠牲になった19人の氏名がいっさい伏せられている問題ですね。これも普通の感覚から言えば不自然な感じがします。さらに今なお90人近くがあの事件の後も同じ敷地内の体育館に住んでいるというのも普通ではあり得ない。
障害者を対象とした入所施設の数は、全国で3095カ所(2015年11月現在)存在しています。知的障害者は公表されている最新データでは74万1000人で、そのうち11万9000人、16パーセントが入所施設に入っている。6人に1人ですね。施設での虐待は後を絶たず、地域社会から遠隔地にあるものも少なくありません。こうした施設が抱えている体質と今回の事件とが無縁とは思えません。
そう考えると、今回の事件は、日本の障害者問題の縮図の側面があり、特にものを主張できない人に対する構造的な問題としてとらえるべきではないでしょうか。
今回の事件の容疑者の発想が優生(ゆうせい)思想だとして問題になっていますが、私はこの何年か、NHKと共同してナチスの「T4作戦」について調査を進めています。
T4作戦というのは、その作戦本部があったベルリン市内のティーアガルテン通り4番地という地名に由来する呼び方ですが、簡単に言うと、価値なき生命の抹殺を容認する作戦です。ここでいう価値とは、働けないもの、戦闘能力がないもの。要するに国家の役に立たないもので、そういうものは抹殺しても構わないというヒトラーの命令によって展開されました。ドイツ国内に限っただけでも20万人以上が虐殺されたと言われます。
しかもそれに精神科医を始め、医療関係者が手を貸した。これには、優生思想に基づくヒトラーの命令があるのですが、同時に、精神疾患に対する薬物療法ができてきて、治らないものが邪魔になる、さらには人体実験をやりたかったとの証言もあります。つまり医師がヒトラーの優生思想を隠れ蓑にして虐殺に積極的に関わったわけですね。
そして、ここで培われたガスを使っての大量殺人の方法が、翌年の1942年から始まったユダヤ人虐殺に使われました。だからこれはホロコーストのいわばリハーサルだったのではないかというわけです。