組織と敵対して追い詰めると、いったい何のメリットが貴乃花親方にあるのか。それを考えていくと、日本相撲協会の理事長の座をめぐる、現在の八角理事長と、理事長選に負けた貴乃花親方との確執以外考えられません。来年3月の理事長選に向けて貴乃花親方は、なんとしても八角理事長をスキャンダルで退任に追い込みたかった。そう考えるのは邪推でしょうか。
 
 現役力士としての頂点である横綱を極めた貴乃花が、引退した後も管理職としての親方株を引き継ぎ、ついには大相撲界管理職の頂点である理事長の座を極めるべく情報戦にもつれ込む。そんなドロドロとした相撲協会内での勢力争いが垣間見えます。
横審終了後囲み取材を受ける貴乃花親方=2016年3月両国国技館(今野顕撮影)
横審終了後囲み取材を受ける貴乃花親方=2016年3月両国国技館(今野顕撮影)
 日馬富士の暴行事件をすっぱ抜いたのは、スポニチ一社だけでした。事件から20日も空白の期間があったとはいえ、見事なスクープ記事だったように見えます。しかしスポニチは貴乃花部屋と関係が深い、いわば貴乃花一門のお抱え新聞社です。そのことを考えると実態は、貴乃花親方によるリークであった可能性が十分考えられます。

 自らの出世のために、神聖な横綱の真っ白な「綱」を汚す。その行為が大相撲ファンの私には許せなかったのかもしれません。

 傷害容疑で日馬富士は書類送検となるとのことです。それにより横綱の立場は致命的なものになります。暴力を振るった日馬富士も悪いけど、先輩である横綱白鵬からの説教の最中に、スマホで恋人とのやりとりをした貴ノ岩にも非があるでしょう。そのどちらも大相撲という特殊な世界の中では、比較的軽微な罪だと私には思えるのです。

 大相撲の世界で、現役の横綱を、現役の親方が警察に突き出す。それこそが日本の国技である大相撲が、今まで受け継いできた美しい伝統と、守り抜いてきた神聖なる「綱」の重みを、一瞬で台無しにしてしまう、極めて残念な行為なのだ、と私には感じられます。

 私がかつて取材した九州場所での横綱武蔵丸は、番組のために特別に「綱」を見せてくれました。部屋の後輩力士たちが3人がかりで、白い手袋をはめて木箱から取り出し、持ち上げて見せてくれた「綱」は、塵一つ付いていない見事な純白のしめ縄でした。横綱はご神木と同様に、神様の扱いなのです。

 その「綱」を締めたときはどんな気分か、という私のインタビューに答えた、当時の武蔵丸の言葉が、「綱」のまぶしい白さの印象とともに思い出されます。

「コレつけると緊張するよ。悪いことできないから」
 武蔵丸はアメリカ人横綱でしたが、日本の心をしっかりと理解していると感じました。日馬富士はモンゴル人横綱ですが、同様に日本の心を理解していると信じたいです。

 酒の席で先輩が後輩に手を上げてしまった。今回の事件は一般の社会ではありふれた事件であり、たいていの場合は示談で片づくレベルの事件です。それがなぜ協会内部で解決できないのか。この事態を最も残念に感じ、嘆いているのは、事件のために汚されてしまった、横綱が締める純白の「綱」自身かもしれません。