その意味で韓国の行動は、単なる「対日嫌がらせ」の域にとどまり、アメリカへのアピール、ないし得点稼ぎとはなりえない。けれども、北朝鮮をめぐる問題がかくも深刻なとき、なぜわざわざ嫌がらせをしたがるのか?
 こう書くと、「韓国人の民族性」とか「歴史を通じて培われた『恨(み)』の文化」といった話が出てきそうだが、そこまで風呂敷を広げなくとも説明は十分できる。北朝鮮問題が深刻だからこそ、韓国は日本に嫌がらせをしたがるのだ。

 北朝鮮にとって、核開発・ミサイル開発は「体制を維持し、国際的な立場を強くする切り札」としての意味合いを持つ。よって話し合いはむろんのこと、圧力を強めたところで、同国が方針を転換する可能性は低い。

 しかし、米朝間で武力衝突が発生したら、どうなるか。アメリカ国防総省のシミュレーションによれば、たとえ通常兵器しか使われなくとも、韓国では1日あたり2万人の死者が出るという。韓国の合同参謀本部など、2004年の時点で、開戦後24時間以内に230万人の死傷者が出ると見積もった。核兵器をはじめとする大量破壊兵器が使用された場合、死傷者は一週間で500万人に達すると予測されている。
韓国・平沢の在韓米軍基地を訪れ、米軍や韓国軍兵士らと昼食をとるトランプ米大統領(左)=2017年11月
韓国・平沢の在韓米軍基地を訪れ、米軍や韓国軍兵士らと昼食をとるトランプ米大統領(左)=2017年11月
 破局的な大惨事が引き起こされるわけだが、だからと言ってアメリカが北朝鮮の核保有を容認すれば、朝鮮半島のパワーバランスは韓国にとって一気に不利なものとなる。しかも北朝鮮問題に関して、米朝の他に影響力を及ぼしうる国と言えば、核を持った二つの大国、つまり中国とロシアぐらいしかない。要するに韓国は、「八方ふさがりのうえに無力」という、きわめて厳しい立場に置かれているのである。
 となれば、長らく反感を抱いてきた日本に嫌がらせをすることで、せめてもの不満解消を計るのは、むしろ自然ではないだろうか。「無力感に苛(さいな)まれる者は意地が悪くなりやすい」というのは、国境や国籍を超えた、人間社会の普遍的な真理なのだ。

 ただし、ここで考えねばならない点がある。
 先の総選挙で、安倍首相がいみじくも「国難」という言葉を使ったとおり、北朝鮮問題はわが国にとっても他人事ではない。武力衝突が発生した場合、日本も多大な被害をこうむる恐れが強いし、北朝鮮の核保有が容認された場合、パワーバランスが不利になるのも確実だろう。
 しかも核武装はおろか、敵基地攻撃能力も持たない以上、わが国もこの問題にさしたる影響力を持ちえない。「万全の態勢で国民を守り抜く」などとうたいつつ、シェルター整備すらなされていないのが現実なのだ。

 言っては何だが、この件に関するかぎり、日本と韓国は五十歩百歩なのである。現にトランプは在日米軍の横田基地を使って来日したものの、韓国を訪問する際にも、在韓米軍の烏山(オサン)基地を使った。韓国が「対日嫌がらせ」に走った根底にも、「八方ふさがりで無力なのは日本も大差ないじゃないか」という心情があったのかもしれない。
 拙著『対論「炎上」日本のメカニズム』でも論じたように、わが国でも近年「無力感に苛(さいな)まれた人々が、意地悪く攻撃的になる」現象が目立つ。韓国の振る舞いは愉快ではないものの、同国のことをどこまで笑えるかは分からないのだ。人の振り見て我が振り直せ、である。