さらにこの高所得者層への所得税率引き下げは、取れるところから税金を取っていないため、90年代から今日まで財政赤字増加の潜在的な要因になっている。他方で、所得税率を上げれば高所得者が働く動機を本当に阻害されるかは全く不明である。おそらく働く動機は大して変わらず、むしろ徴税システムの不備を突く、タックスヘイブン(租税回避地)などを利用した税金対策に努力を傾注するのではないだろうか。

 八田氏はまた消費増税シフトが景気の安定化効果を阻害することも指摘している。所得税に経済を安定化する効果があることはよく知られている。例えば、景気が過熱しているときは、人々の平均所得も増加するので、課せられる所得税率も平均的に高くなり、また所得税も増加する。これにより経済の過熱を抑制する。他方で経済が落ち込んでいるときは全く逆のことが起きる。所得が平均的に低いので、課せられる平均税率も低く、また所得税も低い。そのため人々の可処分所得は上昇することで、経済を回復させる効果がある。これを教科書では「自動安定化装置」(ビルト・イン・スタビライザー)と呼んでいた。

 だが、最近の政府と財務省はこの機能をすっかり忘れてしまっている。2014年の消費増税が、前年までの経済の復活を全くおじゃんにしてしまった。

 日本経済は14年の消費税引き上げ以降、消費を低迷させ続け、いまだに本格的な回復に遠い。八田氏が主張する消費税のさまざまな弊害をみても消費税には現在の日本にとってほとんど利益があるように思えない。むしろ現状では、消費増税シフトを停止し、所得格差をなくす税制に回帰すべきだろう。また14年以降の消費低迷を払拭(ふっしょく)するためには、むしろ消費減税こそが最大の処方箋として考えられると思う。
閣議に臨む安倍晋三首相(左)と麻生太郎副総理兼財務相(斎藤良雄撮影)
閣議に臨む安倍晋三首相(左)と麻生太郎副総理兼財務相(斎藤良雄撮影)
 だが消費減税をする政治的資源(ポリティカル・キャピタル)が、安倍政権にないという人たちもいる。憲法改正よりも、消費減税や百歩譲っての永久凍結は難しいらしい。もし本当にそのように政治的に困難であるならば、その真因であるものはなにか。これほどの多数の民主的な支持を得ている政権でさえも実行できないとするならば、その原因こそ、野党や反安倍勢力が声高にいっている「立憲民主主義ならざるもの」ではないだろうか。そしてその正体が、財務省という一官僚集団であることもまたよくわかっていることではないか。そこを批判的に検討できないことに、政治や言論の危機を感じる。