話を進める上で、高齢者の恋愛と性を医学的側面からも考えてみたい。

 高齢者に限らず、勃起や膣が濡れるといった性反応は、脳、血管、自律神経が正常に機能しているからこそ起こる。高齢者の場合、加齢によって若い頃と程度の差が生じているのは致し方ないが、高齢者の恋愛と性は健康な証拠、基本的に健康を前提としている。



 日本において、初のED治療薬としてバイアグラが販売開始となったのは1999年3月だった。解禁当初は医師への相談に恥ずかしさを覚え、個人輸入による通信販売やアダルトショップで入手する向きも少なくなかった。現在は、内科や泌尿器科の外来受付にED治療薬の処方の案内が普通に置かれるようになった。

ED(勃起障害)治療薬。
ED(勃起障害)治療薬。
 EDは糖尿病の合併症のひとつであり、さらには大病の前兆でもある、という認識から、医師の処方に対する患者の抵抗感も薄れてきた。

 勃起は、自律神経を通じて陰茎への血流より起こるが、人体で一番細い動脈は陰茎内のもので直径1~2ミリである。コレステロールなどがたまって血管が細くなる動脈硬化は、陰茎から始まって心臓や脳に進行し、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの重度な病気につながる可能性も高くなる、と指摘されている。早朝勃起の生理現象が50代、60代でほとんどなくなったら動脈硬化の兆候か、と考えて検査を、の医学的情報も周知されつつある。

 「自力」にこだわらずとも勃起は健康のバロメーターの意識が着実に中高年の男性に浸透してきたのは、高齢者の性および恋愛を後押しするものでもあろう。

 振り返れば、一昔前は糖尿病や前立腺肥大症になったら勃起不全が顕著となり、「セックスから引退」の暗黙の了解があったが、ED治療薬はこれらの病気にも有効である。

 高血圧、尿酸値が高いなどの症状に対して、必要な薬を服用するように、勃起が思わしくなくなったら、陰茎への血行を改善するED治療薬を服用すれば良い、という医療のお墨付きに夢と希望を見いだした男性も多いはずである。

 ED治療薬は、挿入前になえてしまう「中折れ」にも効果だ。70代の男性は、妻と月に1、2回程度、妻とのみしているが、中折れ防止のため、バイアグラを服用するようになり、「20代と同等の勃起力に感動」と教えてくれた。

 恋愛や性は個人差が大きい。特にセックスが好きか嫌いか、経験人数は、と言ったように、その人の人生を映し出す鏡でもある。

 私は高齢者で「する人」は総じて「情緒安定のためのセックス」「癒やし」の意義を見いだしているように取材から考えさせられてきた。

 多くの動物の性行動は1年のある特定の時期だが(ご承知のように、サケは一生に1度)、他の動物の性行動と人間の性行動の相違は「情緒安定のための性」「癒やし」としての性も可能である点だ。大脳の発達のたまものであろう。

 女性の中には「妊娠を気にしないセックスが、こんなに気持ちがいいものとは思わなかった」と話した人もいる。快楽うんぬんと言えそうだが、閉経して新たな境地を見いだした言葉として興味深い。

 もちろん、若い頃に比べたら物足りない、という人もいる。「しない人」では「配偶者が応じない」「相手がいない」のケースはあるが、病気、家庭の事情などを鑑みて、セックスレスで納得している人たちもいる。手をつなぐスキンシップで満足している人もいることは強調しておこう。