中高年の女性にとって、ダイレクトに性的なサービスを利用したり、性愛をテーマにした催しや空間に集まるのは難しいことが多いため、こうしたエロメンやアイドルのサイン会、握手会のように、あくまで今の生活を変えないような形で、非日常と日常の中間地帯で緩やかに性的なものと触れ合い、語り合えるような居場所を作っていく必要がある。

 高齢期の性を充実させるために必要なのは「性に関する自分なりのパートナーや居場所を作ること」だと言える。女性の場合、小説やアダルトグッズだったり、性のことを肩肘張らずに話し合える友人・知人と喫茶店で過ごす時間であったり、出会い系サイトで偶然出会った同世代の不倫相手という場合もあるだろう。

 ちなみに出会い系サイトの世界では、中高年女性への需要は確実にあるようだ。60代を過ぎた女性は「こんな年齢の自分でもよろしければ、一緒の時間を過ごしてくださいませんか」というへりくだった態度を示すことが多く、かつ「お互いのできる範囲の間で、それぞれの希望に合わせたお付き合いができればよいですね」と、相手の立場に立った提案をすることができるため、あえて年配の女性に絞ってアプローチをかける男性もいる。

 どのような場所で出会った相手であっても、どのような形の存在であっても、死生観ならぬ「私性観」=性に対する自分なりの価値観と行動原理に基づいて探し当てたパートナーや居場所であれば、自分を納得させることができるはずだ。

 たとえ他人や世間からみて眉をひそめられるような状態、滑稽な状態に見えたとしても、誰を(何を)パートナーや居場所として選ぶかを決めるのは、あくまで自分自身。「私の性は、私が決める」という性の自己決定原則は、生涯を通して不変なのだから。

 超高齢社会における性の問題を考える上で避けて通れないテーマは、自分の意思で判断、行動することの難しくなった要介護及び認知症の状態にある人の性である。
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 脳梗塞後に認知症を発症した87歳の河万衣子さん(仮名)は、笑いながら人前でいきなり「おっぱい!」と叫んで胸を露出する癖がある。施設のフロア内でも頻繁に胸を露出するので、周りの利用者からたしなめられたり、職員から「男性の利用者の方もおられるので、やめましょうね」と注意されている。

 認知症を発症する前の河さんは敬虔(けいけん)なクリスチャンであり、夫は公的機関で重職を担っていた。長女も福祉施設の施設長であり、次女と孫は学校の教師をしている。

 そうした真面目な家庭で妻としての役割を担ってきた河さんが、認知症になってからは人前で「おっぱい!」「まんこ!」といった性的な言葉を連発するようになった。デイサービスでの入浴の際にも「メンス(生理)が来たから今日はお風呂に入らない」と拒否したり、女性職員に対して「あなた、子供は何人?私は5人産んだわ。(セックスを)やったら、すぐにできるの」と語りかけてくることもある。河さんのこうした言動について、担当の看護師は「自分はまだ女性として現役である、という意識を持ちたいのではないでしょうか」と分析している。

 施設内での性的な言動が頻回になり、他の利用者への影響も出るようになったため、やむをえず職員が河さんの現状を家族に伝えることにした。話を聞いた河さんの長女は、「おかあさん、お願いだからもうそんなことはやめて!」と泣き出してしまった。長女の話によると、以前にも施設の男性理学療法士に性的な発言を繰り返し、先方からの苦情でサービスを受けられなくなったことがあったとのこと。

 長女への相談以降、河さんの性的な言動はしばらく鳴りを潜めていたが、一定の期間が経過すると、再びそうした言動が目立つようになってきた。最近は周囲の利用者や職員も慣れてきて、河さんの言動を良い意味で受け流すスキルが身についてきた。今では河さんが「おっぱい!」と叫んで胸を露出しても、全ての職員が「はい、しまいましょうね」と冷静に対処できるようになったそうだ。