我が国の医師の偏在の悪化要因は女医の増加なのだ。2004~2014年の10年間に女性医師の数は約4万5千人から6万4千人へと42%も増加した。いまや5人に1人が女医で、20代に限れば女医の比率は35%だ。

 OECD(経済協力開発機構)加盟諸国の女性医師の割合の平均は41・5%だ(OECD Health Data2011 )。一方、日本は18%だ。他の先進諸国並みに女性の社会進出が進めば、ますます、女医の割合が高まるだろう。今後の医師偏在を議論する上で女医の存在抜きに考えられない。

 これまで議論されてこなかったが、女医は男性医師より都市部での勤務を好む。その理由は都会生活が好きで、僻(へき)地が嫌いだからではない。地方都市では、子供が十分な教育を受けられないと考えているからだ。
(iStock)
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 最近、シングルマザーで出産した40代の女医は、「現在は給与・職場・育児環境がよい地方病院で働いていますが、子供が小学校に入り、塾に通い始めたら、どんなに待遇が悪くなっても東京に戻ります」という。彼女は都内の進学校から旧帝大医学部を卒業した。子供は「海外の一流大学に進学させたい」と希望している。

 女医の子供の多くが有名中学を受験する。少し古いが2010年に日経メディカルオンラインの亀甲綾乃記者の調査によれば、医師の子弟の56%が私立・国立の中学校に進学する。これは全国平均の8%を大きく上回る。

 中学受験は「ママの戦い」だ。彼女たちは、人生の一時期、仕事よりも子供と過ごす時間を増やすことを選択する。

 現在、議論されている新専門医制度は、彼女たちに優しくない。それは、専門医の資格を取るのに、実績や実力でなく、「最低4年以上の認定施設での研修」などの過程が重視されるからだ。

 現在の医師養成システムでは医学部を卒業し、初期研修を終了するのは最短で26歳。専門医研修を終えるのは早くて30歳だ。新専門医制度が始まり、若いうちは外科医や産科医、年をとったら内科医に転向するようなキャリアは難しくなった。

 新専門医制度は、2004年に始まった臨床研修制度で影響力を失った大学教授たちが復権を目指したものだ。当初から、大学に医師が集まり、地方医療が崩壊することが懸念された。4月14日には、全国市長会が塩崎恭久・厚労大臣(当時)に対して、「国民不在の新専門医制度を危惧し、拙速に進めることに反対する緊急要望」を提出した。塩崎氏は厚労大臣在任の最終日である8月2日に、吉村博邦・日本専門医機構理事長と面談し、改めて危惧を伝えた。

 厚労省も日本専門医機構も、この問題は十分に認識している。だからこそ、一定期間を僻地勤務に充てることを義務づけようとしている。ところが、女医にとって、こんな強制はたまらない。内科や外科をやるなら専門医資格はあった方がいい。専門医資格がなければ、給与や昇進で差別されるおそれがあるからだ。それなら、最初から育児と両立できる診療科を選んだ方がいい。これは合理的な判断だ。